「氷河、大人になったのねぇ……」 マーマは、いつの間にかオトナになっていた最愛の一人息子を見やり、しみじみと言いました。 「マーマ、俺は苦しい」 そう告げるロシアのお友達の表情は、十字架上のイエス・キリストよりも苦しそうです。 「そうね。でも、氷河、愛とは耐えることなのよ。せめて、瞬ちゃんが、氷河ののぼせた訳を中華キャノンごっこのせいじゃないとわかるようになるまでは、氷河は我慢しなくちゃいけないわ」 「…………」 ロシアのお友達だって、それくらいのことはわかっていました。 わかってはいても耐え難い、この苦しみ。 こんな苦しみを味わうことになるのなら、ただただ瞬ちゃんと一緒にいられるだけで幸せだった幼い頃に戻りたいとさえ、ロシアのお友達は思いました。 それは――叶わぬ願いではあったのですけれど。 「瞬ちゃんとお風呂に入るのをやめた方がいいかしら……」 「それはいやだ!」 「でも、今のままでは氷河が辛いばかりだわ」 「それでもいやだ!」 ロシアのお友達は、それがどんなに辛く苦しくても、瞬ちゃんとのバスタイムのない毎日など考えたくもありませんでした。 人は時に、苦しむだけとわかっていても、我と我が身をその苦しみの中に置きたいと願う、矛盾した生き物なのです。 「氷河……」 愛(?)のために試練に耐えようとする我が子の決意に、マーマは感動しました。 その苦しみを完全に消し去ることは、さすがのマーマにもできませんが、せめて少しでもやわらげてあげたいとマーマは思ったのです。 「わかったわ。氷河と瞬ちゃんの愛のために、マーマがなんとかしてあげるわ!」 そうして、マーマは、このオトナの苦しみをやわらげる秘法を、ロシアのお友達にこっそりと伝授してあげたのでした。 |