氷の国のお城は、小人さんたちの住まいにしては、普通サイズの人間も入れる大きなお城です。 それは、この世界のどこか遠いところにあるという本当の氷の国では、小人さんたちの保護者である“氷の国の氷河”という人もそこで暮らしているからなのだそうでした。 瞬ちゃんの膝枕で至福の時を過ごしたロシアのお友達は、エネルギー充填も完了し、今度はお城の中の探検です。 氷の国ゾーンのお城には、1階と2階と屋上があります。 ロシアのお友達と瞬ちゃんは、まず1階のいちばん端の部屋に入りました。 そこは、お城のお風呂場でした。 普通サイズの浴槽が、奥の方に一つ。 その周りに、小人さんたちがお風呂にしているティーカップが15個と、小人さんたち用大浴槽の洗面器があります。 お風呂場の隅には、氷の国の氷河が使うのでしょうか、ケロヨンの風呂桶が何個か伏せて重ねて置いてありました。 「わ〜、小人さんたちって、ティーカップのお風呂に入るんだー! 可愛いね〜」 「うん」 「ちっちゃなタオルまである。1から15まで、番号が刺繍されてるよ」 「うん」 「細かい刺繍だね。氷の国の氷河って器用なんだね」 「うん」 ロシアのお友達は、瞬ちゃんにこくこく頷いた拍子に、お風呂場の床に石鹸が落ちているのに気付きました。 「ねえねえ、氷河。こっち来て。これ、小人さん用のシャンプーかな」 「え?」 そこに石鹸があるのに気付いていながら、人はなぜそれを踏んづけてしまうのでしょう。 ロシアのお友達は、自分を呼ぶ瞬ちゃんの笑顔に気をとられ、まさに、『瞬を追う者、山を見ず』な状態だったのです。 お風呂場に落ちていた石鹸を踏みつけたロシアのお友達は、そのまま、つつつつつ〜っっ☆ とお風呂場の壁に一直線! 「瞬、受け取れっ!」 ロシアのお友達は、自分の身を捨てても、瞬ちゃんと一緒に食べるおやつを守りたかったのでしょう。 壁に激突する前に、光速の動きでリュックを外し、それを瞬ちゃんに向かって放りました。 もちろん、ロシアのお友達はそこに積み重ねられていた風呂桶を吹っ飛ばして、お風呂場の壁に激突です。 そして、ロシアのお友達に気を取られていた瞬ちゃんは、ロシアのお友達のリュックを受け取り損ねて、またしても、ロシアのお友達のおやつはお風呂場に散乱することになりました。 「氷河っ、大丈夫っ !? 」 「いた」 「そんなに痛いの?」 「いや、いた」 「え?」 満身創痍のロシアのお友達が指差したそこには、ぱんついっちょの小人さんの彫刻が一つ。 ぱんついっちょの小人さんの彫刻は、伏せて積み重ねられていた風呂桶の下に隠されていたのです。 とっても安直ではありますが、それもオブジェと思うと、人はなかなか風呂桶まではひっくり返して探さないものなのかもしれません。 「わーい、3つめの小人さんだー!」 瞬ちゃんの喜ぶ顔が見られれば、ロシアのお友達は、したたかに打ちつけた腰の痛みも忘れることができました。 お風呂場に水気のなかったのが幸いして、おやつもほぼ回収できましたし、スタンプも3つめ。 ロシアのお友達は瞬ちゃんに体を支えてもらいながら、お風呂場を後にしたのでした。 何やら小さな影が、二人の去ったお風呂場で動いたのに、ロシアのお友達も瞬ちゃんも気付きませんでした。 |