「氷河! 氷河ーっっ !! 」 2人が落ちたところは、紅葉の森から5メートルほど下の、運良く地面が出っ張っていたところでした。 見たところ足がかりになるようなものもなく、気を失ったロシアのお友達を連れて瞬ちゃんが登るのはとても無理のようです。 「誰かいませんかー !? 助けてくださいー!」 瞬ちゃんは、何度も、出せる限りの大声をあげて助けを呼びましたが返事はありません。 「助けてくださーい、誰か助けて……誰か……ふぇ……っ」 声を限りに叫んでも、答えはありません。 ロシアのお友達は昏倒したままですし、ひとりぼっちの瞬ちゃんは、心細くて、その場に座り込んで泣きだしてしまいました。 その時です。 「……こういう時は、体力温存が生き延びる秘訣だ」 「氷河! 気がついたのっ !? 」 ロシアのお友達の妙にはっきりした発音の口調に、瞬ちゃんは勇み立ちました。 けれど、ロシアのお友達は意識を取り戻したわけではなかったのです。 ロシアのお友達は、謎めいた言葉を残し、再び目を閉じてしまいました。 それは、気を失ってなお瞬ちゃんを気遣うロシアのお友達の、無意識下の言葉でした。 もしかしたら、それもまた、ロシアのお友達と瞬ちゃんの間にある愛が起こした奇跡のひとつだったのかもしれません。 前にも言いましたが、ロシアのお友達が住んでいたところは、凍った薔薇は砕け散り、凍ったバナナで釘が打てるような厳しい環境の所です。 ロシアのお友達自身、生死の狭間をさまよったことが過去に何度もありました。 日本に来る少し前にも、ロシアのお友達は、顔なじみのアザラシと鬼ごっこをしているうちにブリザードに巻き込まれて氷原で遭難してしまい、天候が回復するまでの3日間を自力で凌ぎ、見事生還したことがありました。 その時に得た教訓が、瞬ちゃんを心配するロシアのお友達の口を突いて出たのです。 「氷河……」 全身傷だらけになり、気を失ってもなお、自分を気遣ってくれるロシアのお友達の姿を目の当たりにした瞬ちゃんの涙は、不安の涙から感動の涙に変わっていきました。 幸い、食料(おやつ)はたくさんありますし、ロシアのお友達は生きて、瞬ちゃんの側にいます。 何より、ロシアのお友達は瞬ちゃんのことを、とても大切に思っていてくれるのです。 何を不安がることがあるでしょう。 そう思うと、瞬ちゃんは少し落ち着いてきました。 (誰かが来た気配がしたら、力いっぱい叫ぼう) 瞬ちゃんは、気絶しているロシアのお友達の隣りに寄り添うように座って、その時を待つことにしました。 けれど、こんな辺鄙な場所へはなかなか誰も来てくれません。 おやつをかじりながら、その時を待っていた瞬ちゃんは待ちくたびれて、まもなく、うとうとし始めました。 |