「卑怯…だ……アフロディーテ……ヒョウガを使うなんて……ああっ!」

十数年間、自分にまとわりついてきた魔を、シュンは掠れた声で責めた。
その魔が、ヒョウガの唇を歪ませて、僅かに下卑た笑みを作る。

「彼が、自分の意思で私に憑依を許したんだよ。私の魔の力で君を守れるのならと。これ以上、君とふたりきりでいたら、自分が君に何をしてしまうか、恐れてもいるようだったがね」

“ヒョウガ”が笑いながら、シュンの耳許に囁く。
「かわいそうだから、代わりに私が本懐を遂げさせてやることにしたわけさ」

ヒョウガの唇から、ヒョウガの声で、しかし、魔の言葉。
シュンは目眩いがした。

「無理もないだろう? 君と二人きりで旅をしていて、しかも君は全くの無防備。騎士の礼節と、人の愛、どちらがより強いものだと思う? 礼節も忠義も人間が作ったルールだが、愛と欲望は心と身体の内から自然に湧き起こってくるものだ」

ヒョウガの唇から、魔のものの言葉が紡ぎ出される。
“ヒョウガ”の指は、シュンが触れて欲しいと望んでいた場所に絡みついてきた。

反駁の言葉の代わりに、シュンの喉の奥から洩れてきたものは、懇願とも歓喜ともつかない熱い吐息だった。

ヒョウガの心はどうしているのか。
魔の力に抑えつけられて、この魔の言うことを、どこかで聞いているのか。
自分のこの浅ましい姿を、どこかで見ているのか――。

シュンは唇を噛み締めた。






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