「さあ、言ってごらん。どうしてほしい? このままでいいかな?」

アフロディーテは、相変わらず、ヒョウガの声で言う。

「欲しいと言いなさい。自分の欲望に負けて、私に負けたことを認めて、これまでの非礼を私に詫びて――。ああ、もう何でもいい、とにかく負けを認める言葉を、私に言いなさい。そして、勝利の歓喜を私に味わわせてくれ」

アフロディーテのこだわっているもの。
それが何なのかを、シュンはもちろん知っていた。
そんなものが欲しいのなら、いつでもくれてやると思っていた。
だが、“それ”をこんなことで――こんなことに屈して与えるわけにはいかない――のだ。

「そうしたら、望みを叶えてろう まあ、今の君の望みと言ったら、もしかするとこの男に身体の中まで蹂躙されてしまうことかもしれないが――」

(その身体を動かしているのはヒョウガじゃない……これはヒョウガじゃない…!)

シュンは必死で自分にそう言い聞かせていた。
しかし、一度たぎってしまった身体は、シュンの意思を無視して、アフロディーテへの屈従を求めてくる。

シュンは泣きたくなってきた。


騎士に任じられて、氷のように冷たい手応えになってしまったヒョウガ。
そんなヒョウガに出会うたび、シュンは寂しく、悲しく、辛かった。
そして、不思議に熱い苦しみに捉われた。

それが、何という感情なのかを、戸惑っているシュンに教えてくれたのはアフロディーテだった。
そうして、その感情が高まった時、大人がどういう行為に及ぶのかも、彼は尋ねもしないのにシュンに教えてくれた。

『普段の取り澄ました仮面など投げ捨てて、最後には肉を食らう獣と同じになって、互いを貪り合うんだよ』

12歳のシュンは、その時には、アフロディーテの言葉を信じなかった。
そんな浅ましい真似を人間がするはずがない。
それは魔物だけの話だと笑い飛ばしさえした。

だが、今、その言葉通りのことが、自分の身に起こっている。
しかも、それは、ヒョウガでないものの手によってもたらされた。

なまめかしい動きを続けていた触手が、シュンの内腿を撫であげて、シュンに声をあげさせる。

『君だって、あの冷たい目をした騎士様だって同じだよ。宗教のような人間の作ったルールなど及びもつかない、原初の力に支配されるんだ』


「いやだ…いや……そんなこと、僕は絶対に……」

自分が拒絶するものが、アフロディーテの言う原初の力なのか、あるいは、その力をもたらすものがヒョウガでないという事実なのか、シュン自身にもわかっていなかった。

いずれにしても、その拒絶は、言葉の上だけのことでしかなかったのだが。






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