アフロディーテが、シュンの無駄な足掻きに含み笑いを洩らす。

「私はどちらでもいいんだよ、シュン。私にも欲望はあるから、私がこのまま君をいただいてしまうのもいいな」

アフロディーテの操る蔓が、彼の指の代わりに、シュンのそこここを一斉に撫であげる。
シュンの喘ぎは、既に悲鳴に近かった。

「答えられないのか、シュン? 息が苦しそうだが」
「いや……放して……」
「ご冗談を」

「ヒョウガだと……ヒョウガだと思ったから、僕……」

シュンの涙声に、アフロディーテは、同情に耐えないとばかりに頷いてみせた。
「本当にひどい話だねぇ。でも、こんなになってしまったら、もう相手は誰だって構わないだろう?」

シュンが眉根を寄せて、首を横に振る。

「……本当に君は可愛いね。それでも意地を張るのかい? 欲しいと言ってしまえば楽になるよ?  君の身体はもうこんなだし」

アフロディーテは触手を使わずに、自分の指で――ヒョウガの指で――シュンのそこに触れてきた。

「初めてだからわからないのかな? これは――ここがこんなふうに蠢いているのはね、身体が欲しがってひくついているからなんだよ。無垢な公子様は、まるで受け入れ方を本能で知っていたみたいだね。女の身体でも、最初はこうはならない。君は、ずっと待っていたのかな? この男に、こんなふうに組み敷かれる時を」

揶揄するようなアフロディーテの言葉が挑発だとわかってはいても、冷静ではいられず、だが反論するだけの力も、今のシュンにはなかった。

「そして、君を支配するものを歓ばせようとして、君のここはこんなふうにたぎっているんだ」

“ヒョウガ”の指が、シュンを弄うように、そこに侵入してくる。

「や……っ!」

自分の意思を無視して、その侵入に反応する自身の身体に驚愕し、シュンは息を飲んだ。

「……私の心も木石じゃないんだ。こんなふうに欲しがっている君をいたぶるのはもうやめにして、もう、このまま私がいただいてしまうのもいいね」

あまり刺激して、シュンが先に終わってしまわないように、アフロディーテはすぐに言葉での挑発に戻った。

「心が手に入らないなら身体くらい手に入れたってバチは当たるまい。君のために、私自身でなく、この男の身体を使ってやる。シュン、私のものになれ」

言うなり、アフロディーテは、シュンの身体に絡みついていた触手をすべて消し去った。
それでも閉じることを思いつかずにいるシュンの両膝を立てさせる。
魔の手先の触手のような蔓ではない“ヒョウガ”の身体の一部が、表皮だけでなく自分の内奥まで侵そうとして押しつけられるのを感じて、シュンは、“ヒョウガ”の肩を押しのけようとした。

そして、渾身の力を振り絞って、言葉を作った。

「んで る」
「ん?」
「ヒョウガでないものにこんな……され…なら……んでやる」
「何?」

「死んでやる……っ!」

言い終わるや否や、喘ぎを吐き出すために半開き状態だったシュンの唇が固く閉じられる。

「ばっ……馬鹿な真似はやめなさいっ!」
シュンが何をしようとしているのかを悟って、アフロディーテは慌てて、シュンの唇をこじ開け、その歯列に自分の指を挿し入れた。


シュンの舌の代わりに、血を滲ませることになったのは、ヒョウガの指の方だった。






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