「ヒョウガ……」

「俺の国と両親のことを俺に教えてくれたのは、おまえの父だ。復讐したいのならしろと言った」

「できるわけがない。おまえの父だぞ。俺が復讐などしたら、おまえが悲しむ」

「……その時に、俺はおまえの騎士になることを決意したんだ。おまえと一緒に、戦のない国を作るために」


「知ってたんだね……」

「おまえが、父と兄を嫌っている振りをしているのが、俺の代わりに彼等に復讐しているのだということも、そして、多分、俺の復讐の刃は自分だけが受けるつもりでいることも」

「ヒョウガ……」

シュンが自分に対して負い目を抱えていることを知っていたから、ヒョウガこそが言えなかったのだ。
シュンを欲しいとは。

そんなことをシュンに告げたら、父の罪への負い目を抱えているシュンは、己れの心を殺してでもその身を自分に差し出しかねない――と、ヒョウガは思っていた。


「そんな必要はなかったのに。俺は恨んでなどいなかった」

「だって……僕は幸せなのに……僕には父君も兄君もヒョウガもいて幸せなのに、僕の幸せはヒョウガの不幸の上にあるんだ……!」



「俺は不幸ではなかった。おまえと会えたから」



シュンは、ヒョウガのその言葉に、もうずっと長いこと忘れていた涙を取り戻していた。


「卑怯だと思うか。両親の無念を忘れ、少しでも生きる力になるものを探して心を慰め、それを糧に生きようとする俺を」

こんなにも優しく温かいものをなぜこれまで忘れていたのだろう――と思いながら、シュンは首を横に振った。

「そうできたらいいと思う、僕も……。トルコへの恨みなんて忘れたい」

何年振りかで見るシュンの涙に、ヒョウガが、それは許されることなのかと一瞬ためらってから、そっとシュンを胸に抱きしめる。

「ふたりで作ろう、戦のない国」
「うん」

ヒョウガの腕の中で、シュンは小さく頷いた。

子供の頃の、他愛ない、だが、心から願った夢。
それを、決して叶うことのない夢だと、誰に言うことができるだろう。

シュンは、そうして、ヒョウガの顔を覗き込むようにして尋ねてみた。
今なら、もう一つの夢も叶うような気がして。

「僕が……正直になって……って言ったら、ヒョウガはどうしますか」

「…………」


少しの間を置いてから、シュンの唇にヒョウガのそれが降りてきた。






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