その夜、瞬の部屋のドアが、まるで時ならぬ雪嵐でも到来したかのように勢いよく開けられた。 「氷河?」 秋の夜空に自分と氷河の星座を捜すという風雅にいそしんでいた瞬は、室内に突然吹き込んできたブリザードに目を剥いてしまったのである。 驚きつつ、いつものように氷河の瞳の色を確かめようとした瞬に、氷河はその猶予を与えなかった。 ずかずかと瞬の部屋に入り込んできた無作法な男が、前置きもなく用件に入る。 「秋の味覚狩りに来た」 「? 葡萄はもうないよ。星矢がみんな食べちゃったから」 「そんなものを俺が食いたがるか。俺が食いたいのはおまえだ」 「…………」 氷河のその言葉に、瞬は面食らった。 すぐには理解できなかった。 何とか理解できてからも、だからといって、その言葉をすんなり受け入れる気にはなれなかった。 「ちょ…ちょっと唐突すぎない?」 「そんなことはない。今は秋だ」 「秋だから…って、だって、も…物事には順序ってものがあるでしょう」 「順序? どんな順序だ」 尋ねながら、氷河は瞬に触れてくる。 「た…種を撒いたら、冬を越えて」 「冬が過ぎたら?」 その手から、瞬は身を引いた。 「春に、好きだって言って」 「俺が言わなくても、知っているんだろう、おまえは」 氷河は、しかし、それで引き下がるつもりはないようだった。 「夏にデートを最低3回くらいして」 「本気で言っているのか?」 絡みついてくる手は、瞬の予測外のものだった。 「秋が来たら」 「今が秋だ」 「来年の!」 「……おまえの時計は、意外と悠長だな」 「氷河が今までそうだったじゃない! 溶けない氷に僕がどれだけ焦れていたと思ってるの!」 永遠に溶けることがないのではないかと思えるような冷たい氷の壁。 その前で、瞬は、自分の時計の単位を随分とゆったりしたものに変えざるを得なかったのだ。 「溶けたんだ。おまえが溶かした。その手で」 「氷河…!」 「あんなふうに挑発されて、黙っていられるか」 氷河は本気らしかった。 抱き寄せられるというより、掴みあげられるようにして、瞬は、氷河の腕と胸の中に閉じ込められていた。 まるで、房ごとの葡萄に噛みつくようなキスが、瞬の唇に降ってくる。 それだけならまだしも、氷河は、それがまるで当然の権利だとでも言うかのように、瞬の肩を寝台に押し付けてしまったのである。 「氷河……っ!」 いつか、こんな時が訪れることは知っていた。 けれど、瞬はその時を何年でも待つ気でいたのだ。 それが、なぜ、今夜なのか。 |