「……嘘をつけ」 瞬は、冥界で死者の裁きを待つ死人よりも青ざめた頬をしていた。 何も言わずに抱きしめてやればいいものを――と、氷河は思ったのである。 それで、瞬の心が少しでも癒されるのなら、氷河はそうしていたかもしれない。 しかし、瞬がそんな単純な思考と感情の持ち主でないことを、氷河は知りすぎるほどに知っていた。 「氷河」 「おまえが俺にそのことを言ってくれなかったのは、おまえが、俺を無力だと思っているからだ」 瞬が望んでいるのはいつも、自分の非を責められることなのだ。 その上で、瞬の心を整理してやらなければならない。 瞬の罪。 ハーデスにその身を支配されたことは、瞬の罪だろうか。 瞬の弱さだったろうか。 今、氷河の前で辛そうに肩を震わせている瞬に何らかの罪があるとしたら、それは自分自身を偽ったことだけだった。 「そんなことない」 「俺が、おまえをハーデスから守ることも、ハーデスのせいで苦しんでいるおまえを力づけてやることもできない存在だからだ。おまえが、そう思っているからだ」 「そんなことない」 「でなかったら、おまえがそう思っていなかったと言うのなら、言ってくれていたはずだろう。それを、パジャマが気に入っただの何だのとくだらないことで誤魔化して」 瞬は、自分自身を偽っている。 それも、自分自身のために。 「違うのっ!」 「どう違う」 「氷河が無力だなんて思ってたら、僕はとっくに自分を殺してたよ。その方が安全なんだから」 それは、最も瞬らしくない“罪”だった。 「でも、できなかった。僕は氷河の側にいたかった。生きて、側にいたかった。僕は、僕がまたハーデスに支配されることになっても、きっと氷河やみんなが僕に力をくれる、僕を助けてくれるって信じてる。僕は――僕はただ……」 そして、それは、氷河には最も許し難い、だが、許さずにいられない罪、だった。 「僕は……この痣を氷河に見られたくなかったの」 「醜くて――き…気持ち悪いでしょ。氷河がこれを見たら、僕のこと、嫌いになるかもしれないでしょ。僕はただ――恐かったんだよ」 「氷河が……この傷を見て、少しでも嫌悪の表情を浮かべたら…って、そんなこと考えるだけで、僕はもう……」 許さずにいられるわけがないではないか。 |