「……氷河」
「何だ、まだ何か――」

合点し切れないことがあるのかと言いかけた氷河に、瞬は、首を横に振った。
瞬の指がそろそろと氷河の胸に這いあがってくる。

「僕、ずっと我慢してたの。すーっごく、我慢してたんだ」
「のようだな」

先程の反応から察するに、瞬の我慢は相当のものだったらしい。
案外、クマのパジャマの下で、瞬は氷河の何倍も悶え苦しんでいたのかもしれなかった。

「だから……」

クマの次は猫、猫の次は犬である。
瞬は散歩をねだる仔犬のようにくんくんと、氷河の腕にじゃれついてきた。

「……絶食していたところに、多量に食べ物を詰め込むと身体を壊すぞ」
「死んでもいい」
「瞬」

突然人間の顔に戻って、しかも真顔でそう言う瞬に、氷河が一瞬息を飲む。

「……って思うんだよね、僕、いつも、あの時」
「…………」

瞬は、神や人間というより、よほど妖精に似た風情をしている。
冗談なのか本気なのか判断に苦しむ口調と、不可思議な微笑で、瞬は氷河にそれをねだっていた。

「褒め言葉と受け取っておこう」

そう告げて、氷河が、貪欲で可憐な恋人の身体に再び覆いかぶさり、唇をふさぐ。
瞬は、嬉しそうに、氷河の首に両腕を絡めてきた。

“今”が自分の意思でどうにでもできるものなのなら、それは心地良いものであった方がいい。


――氷河と瞬は、同時に、同じことを考えていた。






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