が、いつの世も、人に災いをもたらすものは、真の力を持った者ではなく、力を得ようとして汲々としている者たちなのである。


翌日、氷河が内裏に出向くと、内裏では、猿どころではない大騒ぎが起こっていた。

「どうしたのだ」

渡殿ですれ違った近衛府の将監を捉まえて、氷河は騒ぎの理由を問い質した。
将監が、氷河の髪の色で、自分を詰問してくる相手が何者なのかを知り、畏まった口調で事の次第を説明し出す。

「は。昨夜、帝の石帯がなくなりまして――宋の国から取り寄せた宝玉の縫い込まれた高価な石帯です。帝は、その在り処を陰陽寮の陰陽師共に占わさせたのでございます。ところが、その占朴が終わる前に、帝のお世話をしている子供が、麗景殿の一室に石帯があるのを見つけてまいりまして……」

「瞬が、か? それで一件落着ではないか、どうしてこんなに内裏が騒々しいんだ」
「瞬は占いなどよりずっと役に立つと、帝がその子供をお褒めになったのが、陰陽寮の者たちの癪に障ったようでございます。帝がそんなところに石帯を忘れるはずがない、瞬が手柄を立てるために盗んで隠しておいたのだと言い立て始めました」

「馬鹿な。帝は何と言ったのだ」
「帝は……最初はご自分が忘れられたのだとおっしゃっていらしたのですが、陰陽師たちの剣幕に合って、忘れたのではなかったかもしれないと言を左右にされて……」

「あンの、クソ帝! で、瞬は !? 」
「安福殿の小部屋に軟禁されております。いずれにしても、あの子はもう御所にはいられなくなりますでしょう。陰陽師共にああ憎まれてしまっては」

陰陽寮の長官は、氷河の兄、吉平である。
長官の監督不行き届きに苛立ちつつ、氷河は急いで安福殿へと足を運んだ。

見張りに置かれていた小者は、これまた氷河の髪を見るや、咎人を訪ねてきた者が誰なのかを知り、恐れ入った様子で即座に部屋の閂を外したのだった。






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