「なんで、こうなっちゃったんだろう……」 瞬は、ラッキョ・コンサルティング社のビルの一室で、パソコンのキーボードを叩いていた手を止めて、宙に向かって呟いた。 現在の瞬の身分は、ラッキョ・コンサルティング社秘書室長。 氷河がラッキョ・コンサルティング社を立ち上げた際、瞬はかなり強引にラッキョ・コンサルティング社社長に、秘書として引き抜かれてしまったのである。 「何か言ったか、瞬」 法人化して、全ての業務を電算化してしまうと、代表取締役社長というポジションは、存外に暇なものだった。 売り上げは、法人化からほんの数ヶ月で百億になんなんとしていたが、社員は3、40人で十分に足りている。 暇を持て余していた代表取締役社長は、自分の掛けていた長椅子に瞬を招き寄せると、その膝の上に自分の秘書を横座りに座らせた。 ネクタイを緩める仕草が、いかにもスケベ社長らしく堂に入っている。 瞬も、いかにも有能な秘書らしい仕草で、氷河の首に腕を絡めていった。 「僕、学校で色々勉強したかったんだけど……」 「学校で? 何をだ?」 「何をって、そりゃ、社会の一員としてやっていけるだけの基礎学力と経験を身につけたいと思ったんだよ」 「目的は達したろう。おまえは今、一社会人として、この会社で労働し、自分を養っていけるだけの報酬を得ている」 「そうだけど……」 「それともおまえは、超多忙の俺を見捨てて、あのまま学校に残っていたかったのか」 社長の指が、秘書のベルトを器用に片手で外し、断りもなくその内側に忍び込んでくる。 氷河の指が動くたびに、瞬は幾度もきつく目をつぶり直した。 「そんなことないけど、でも……」 「でも?」 「こんなふうに社長と秘書ごっこもいいけどね………あ…ん…っ!」
「寮の二人部屋でね、隣りの部屋の友達を気にしながら、声を押し殺して――ってのも、いいなー……なんて思ってたんだ、僕」 荒い息が収まってくると、瞬は、ソファの横でネクタイを結び直している氷河を見上げて、28分前の続きを口にした。 口にしてしまってから、ぽっ☆と頬を染めるあたりが、瞬の瞬たる所以である。 「なるほど」 長椅子にうつ伏せになっている瞬の、綺麗な背中に目を奪われていた氷河が、瞬の提案を真面目に吟味し始めたのは、瞬が衣服を着け始めてからのことだった。 それは、確かに、なかなかそそられるシチュエーションである。 グラード学園の寮は全室4人部屋だったために、そのシチュエーションを試みることはできなかったが、しかし、それは、確かに魅惑的なプランではあった。 |