あれはいつのことだったか。 俺はひどく落ち込んでいた。 どうせまた、俺のせいで死んだ誰かのことで、考えても詮無いことを考え、鬱々としていたんだったろう。 瞬は、あの優しい声で、俺を慰め、励ましてくれた。 どういう会話の流れだったかは、はっきりと憶えていない。 多分、俺は瞬の同情を引きたくて、わざと厭世的な言葉を吐いたんだ。 「人間なんか、どうせいつかは死ぬ。俺が生きていることにも意味はない」 ――確か、そんなことを言ったんだったと思う。 「人はどうせいつかは死ぬんだから、生きてることに意味はないって言うの?」 それまで、ただただ優しいばかりだった瞬の声音が、急に硬い感触に変わった。 「そうだろう? どうせ人はいつかは死ぬ。病気か事故か、自分で死ぬ奴もいるだろうし、身内に殺される奴もいる。おまえも、敵を傷付けたたことなんか、あまり気にしないことだ」 「氷河、本当に、そんなこと思ってるの?」 「事実だろう」 今なら、わかる。 俺はただ、瞬に言ってほしかったんだ。 『そんなことないよ。氷河が生きてることは、僕にとってはとても大事なことだもの』 ――そんなふうな言葉を。 だが、瞬は、俺の望んだ言葉を俺に与えてはくれなかった。 瞬は、少し苛立たしげな口調で、 「だったら、氷河、今、死ねば」 と、言ったんだ。 「……なに?」 「いつかは死ぬから、生きてることに意味はないなんて思ってる人間が生きてて何になるの。さっさと死ねば」 「瞬……」 瞬の瞳には悔し涙が滲んでいて、それを見た時に、俺は知った。 人は一人で生きているんじゃない。 瞬の瞳をそれ以上涙で濡らさないために、俺はくだらない愚痴を言うべきではない。 俺は生きていなければならない。 俺は幸福でいなければならない。 その幸福は、瞬がくれる。 自分が生まれてきて、そして生きていることの意義と意味を、あの時ほど実感したことはない。 いや、本当は、それまでに幾度も、俺は瞬に同じことを教えられてきた。 俺はそれを、不幸――俺が勝手にそう決めつけていただけだ――に出会うたびに、忘れてしまっていたんだ。 ――あの瞬が、自分の命の限りを知らされたら、どうするのだろう? そして、俺はどうすればいいんだろう? |