小さなブーケを二つ手にして、俺は瞬の病室を訪れた。
1週間ぶりに見る瞬は――瞬は、思いのほか、元気そうだった。

視覚的に刺激の少ない薄い色だけで作られている病室で、瞬の肌の白さが妙な鮮やかさをもって、俺の目に突き刺さる。
瞬の病は血液の病である。
病魔は、瞬から薔薇色の頬を奪い取ってしまったらしい。

「瞬」
「氷河……!」

瞬は、俺の姿を見ると、瞳を輝かせてベッドに身体を起こし、それから少し感情を抑えたような笑顔を見せた。

「随分、ご無沙汰だったけど、何かあったの」
わざと拗ねたような口調になる瞬に、俺が作りかけた微笑はぎこちなく強張ってしまった。

「……おまえへの見舞いをどっちにするか悩んでいたんだ」
「お見舞い? 1週間もお見舞いのことで?」

瞬の側に近寄る。
頬から血の気が失せている以外は以前と変わったところもないような瞬が、首をかしげるようにして、俺の顔を覗き込んできた。

「結局選べなくて、二つ買ってきた。おまえはどっちがいい? いらない方はおまえの担当の看護婦にでもくれてやろう」
そう言って、俺が差し出した二種類の花を、瞬はしばらく無言で見詰めていた。
ややあってから、くぐもった声で、瞬は低く言った。

「どっちもいらない」

「なに?」
「どっちもいらない!」

小さな悲鳴より先に、瞬の細い腕が俺の首に絡みついてくる。

「どうして氷河は、1週間も僕に会いに来れないの! こんなのいらない! 氷河がいればいい!」

――細く白い瞬の腕。
以前は、その細さを愛おしいと思っていたが、今はその細さが痛々しい。
だが、敵対する者たちに嘲笑されるほどに細いその腕には、いつも――今も――誰よりも強い力が備わっているのだ。

「瞬……」

厚みのない瞬の肩を抱きしめながら、俺は、白い寝具の上に投げ出された二つの花を見た。
その花のどちらも、瞬には不要のものだった――のだ。






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