俺は気付くべきだったんだ。


人が人に秘密を持つ理由。
瞬が、一輝に秘密を持った訳――に。

瞬は、兄以外に大切なものができてしまったせいで、一輝と心が離れてしまったような気がして――離れてしまうことを怖れて――不安で仕方がなかったのに。
秘密のない、ありのままの自分を一輝に受け入れてもらえないかもしれない可能性に、瞬は怯えていたのに。


――俺のせいで。


なのに、俺はわからなかった。


「おまえは、おまえが俺とこんなことしてるのを、一輝に知られたくないんだ」

「氷河、やめて…!」

俺が、瞬を壁際に追い詰めて、瞬を抱きすくめ、まるで噛みつくように瞬のうなじに唇を押し当てた時だった。

「氷河、貴様、何してる!」

瞬の兄が、ラウンジに入ってきたのは。

まあ、さすがは一輝――と言うべきなのだろう。
弟の危機には、いつも都合良く現れる馬鹿野郎が!

――と、毒づく前に、俺は、手加減無しに、一輝に殴り倒されていた。


俺は――俺は、だが、起き上がって、奴を殴り返すわけにはいかないじゃないか。
相手は、瞬の兄だ。


無理に気力を失わせて、その場に倒れたままでいた俺の耳に、瞬が泣きながら兄を制止する声が聞こえてきた。






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