「あー、もう付き合ってられん!」
「そうだよ、いい加減にしてよ!」

瞬が、血に濡れた剣を持つ軍人に気後れした様子もなく、食ってかかる。
「イアフメスさん、あなたが欲しいものは何 !? 王様の永遠の命と、セケムケトさんの幸せとどっちが大事なの!」
「しかし、私ごときがセケムケト様の永遠を奪うことなど――」

「何、寝言を言ってるんだ。おい、ガキ! おまえは永遠の命が欲しいのか!」
氷河は氷河で、言葉使いが乱暴極まりないものになっていた。
到底、一国の王に対するそれではない。

「いらない! そんなの、いらない!」
氷河に問われた王が、激しく首を横に振る。

「ほれ、当人がそう言っている」
「しかし、セケムケト様には、王としての栄光と神の永遠が――」
「この子のどこに、栄光があるんだ。おまえに冷たくされて泣いているだけの、ただの子供じゃないか」
「つ…冷たくなど」

「冷たくしてるよ!」
さすがの瞬も、ここまで追い詰められたセケムケトの姿を見せられてしまっては、イアフメスを庇うことはできなかった。

「ああ、冷たいな。絶対零度以下の冷たさだ」
もちろん、氷河には、最初から彼を庇う気などない。

「しかし……」
「しかしもカカシもあるか! この死体は俺たちが片付けておくから、貴様等は、どこぞの部屋にしけこんで、さっさとやることをやってこい!」

「しかし……」
「しかしは聞き飽きたと言ったはずだ! このウスノロのイ○ポ野郎が!」

やることをしたいのは自分の方なのである。
障害だらけの恋路に苦しんでいる自分が、なぜ他人の色恋沙汰に関わったりしなければならないのかと、イアフメスにとっては藪蛇的に、氷河の怒りは究極にまで燃え上がっていた。


「震えてる可愛そうな子は抱きしめて慰めてあげるのが人の道だよ。ここには神様なんかいないんだから」
氷河の口汚さにはさすがに苦りながら、瞬は、いわれのない暴言を投げつけられて戸惑っているイアフメスに、穏やかな声音で忠告した。

「しかし……」
「あなた、しかし、しか言えないの。」


「セケムケト様……」

素性も知らない異邦人に責められて、イアフメスはためらいながら、彼の王の上に視線を移した。

彼の王が、その視線を濡れた瞳で受け止める。

「僕は、孤独な魂を抱えて永遠に存在したくなんかない。僕が欲しいのは……そなたと共に生きて、そして、そなたと死ぬことだ」

神たる王から愛を告げられた、王の下僕の心中はどんなものだったのだろう。
氷河には、幸福感よりも恐れと驚愕に大勢を占められたイアフメスの混乱と、そして歓喜とがわかるような気がした。






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