不届き者のなれの果てといっても、亡骸の始末など決して楽しい仕事ではない。

自分の王にはじれったいほどに遠慮していたイアフメスが、それでも現代人ほどには人命に重きを置いていないことは事実のようだった。
彼は、自分の王以外を視界に入れていない忠臣で、そして、軍人なのだ。
悪事を働いた奴隷を2、3人殺したことに罪悪感など感じもしないのだろう。

「どーしたの、氷河。溜め息なんかついて」

「いや、本当なら、今頃そーゆー幸せな目を見ていたのは俺の方だったのにと思ったら、空しくなってきた」

時代も場所も信仰しているものも違えば、人の命の重みが違ってくるのは当然である。
氷河は、考えていたこととは違うことを口にして、わざとらしく嘆息してみせた。

瞬はその手のことに関しては、人に倍して感じやすいのである。
わざわざ言葉を作ってまで、瞬の憂鬱を深めることはない。

氷河の思い遣りを察したらしく、瞬が少しばかり寂しそうに微笑む。
それから、瞬は、多分に無理をして、その微笑を明るいものに変えてみせた。

「この場を丸く収めてみせてくれたら、ご褒美をあげるよ」
「え……?」
「あの二人には幸せになってほしいもの」

この際、その理由は何でもいい。
大事なことは、この場を丸く収め、あの二人を幸せにしてやれば、瞬からご褒美をもらえるという、その事実である。


氷河は突如、人命の重さを忘れ、あの二人のため、瞬の笑顔のため、そして、何よりもご褒美のために、それまで真剣に稼動させていなかったアタマをフル回転させ始めたのだった。






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