氷河は、サッカラの砂漠にいた。 王の遺体のない石棺を収めるピラミッドを造るために。 またしても、小宇宙全開の突貫工事だったが、今回は自分から言い出したことではあったし、完成の暁には褒美が約束されているとあって、氷河は目一杯張り切っていた。 「おまえは、王サマの側にいた方がよかったのに。カーバーが気を変えて、また王サマの命を狙い出したらどうするんだ」 少し離れたところで、余った日干しレンガを脇に片付けている瞬が埃にまみれている様を懸念しつつ、それでも氷河は上機嫌だった。 「そんなことしないと思うよ。セケムケトさん、ずっとベッドで苦しそうに呻いてるから。あそこに踏み込むのは勇気がいると思うな」 「まあ、イアフメスもたまってたんだろ」 『俺もかなりたまってるが』 氷河は確かに言葉にして瞬に告げたのだが、それは紅海から吹いてくる風によって、リビア砂漠の向こうに運び去られてしまった。 「でも、消えたファラオの謎の訳がこんなことだったなんて、ちょっとロマンチックだよね。僕たちの生きてる時代より47世紀も昔の人間も、心は僕たちと大して変わらなかったなんて」 瞬が言葉を発する時だけ、紅海からの風も止む。 紀元前27世紀よりはるか昔には、この乾燥したエジプトも緑あふれる森林地帯だった。 形ある永遠はこの世に存在しないのかもしれない。 だが、形のない永遠なら。 (形のない永遠なら、それはどこかに存在するのかな?) やっと形を成してきたピラミッドの中腹で懸命にレンガを積んでいる氷河の姿を眺めながら、瞬はひっそりと心の内で微笑した。 |