王宮には、至極簡単に入ることができた。 ちょうど庭造りのために国民を徴集する前に、土木建築労働希望の外国人等を受け入れていた時だったのである。 さすがに、自ら志願してくるのは、その日の食べ物にも事欠いている浮浪者のような輩ばかりだったが。 メソポタミア文明特有のレンガ造りの壮大な王宮は、五階建てのビルほどの高さがあった。 それが実に二階部分のない城なのである。 天井の高さ、天井を支える柱の長さには呆れるばかりだった。 その王宮の前に、これまただだっ広いさら地がある。 ここに、王は、問題の架空庭園を造るつもりらしく、幾人もの庭師や設計士たちが、訳の分からない測量機器を持ってうろうろしていた。 「おい! そこの、変な服を着たガキ! メシ目当てに来たんだろうが、石ころ一つ運べないようなガキにタダメシ食わせてやるほど、陛下は甘くないぞ。とっとと帰れ!」 兵士の一人が氷河の後を追ってきた瞬を捕まえ、追い返そうとして大声をあげる。 「い…石ころくらい運べます! 失礼なこと言わないでくださいっ」 カチンときた瞬は、地面に落ちていた石ころを拾い、小宇宙を燃やして、その石ころを粉々に砕いてみせた。 瞬を追い払おうとしていた兵士が驚嘆の声をあげて、一、二歩後ずさる。 「綺麗な顔して、なんつー馬鹿力の娘だ! おい、みんな、こっち来てみろ。すげー怪力女が来たぞーっ!」 「ぼっ…僕、男です! 失礼なこと言わないでください!」 「それも証拠見せられるのかーっ!」 「証拠…って、みっ…見たら分かるでしょっ。この僕のどこが女に見えるっていうんですかっ!」 「顔ーっっ!」 いつのまにか瞬の周りには黒山の人だかりができていて、兵士も測量技師も工匠も土木建築業従事希望者も――つまりは王宮前の広場にいたほとんどの者たちが、がやがやわいわい言いながら怪力女の見物に繰り出してきていた。 最後には、この王宮の主とその王妃までが。 |