時間は限られている。

紫龍は、一週間経ったら元に戻るようにしておくと言っていた。
紫龍の言葉を鵜呑みにする気は、氷河にはさらさらなかったが、自分一人のことならまだしも瞬が絡んでいるとなれば、紫龍もそうそういい加減なことはしないだろう。

となれば、どうしても一週間で――実質は六日間で――氷河は架空庭園を築きあげなければならないことになる。
そうしなければ――ネブカドネザルが国民に夫役を課することになれば、瞬が悲しむのだ。



その日から、氷河は死ぬ気で頑張った。
王宮に縦横各々四百メートル、高さ十五メートルほどの土台を築き、その上に段状の建造物を建てる。
段ができあがると何千トンもの土をその段に運び、広いバルコニーに沿って花壇を作り、花や果樹を植えた。

一番上の段の面積は六十平方メートルほどの、高さ百メートルを超えるピラミッド型の庭園を造るのに、氷河は三日を費やした。

最も大きな問題は、ほとんど雨の降らない乾燥地で、その大きな庭園に水を供給することである。
設計者は、庭の最上段に巨大なタンクを作り、そこにポンプでユーフラテス河の水を汲み上げる仕組みを考案しており、その水の供給施設を作るのに、更に三日。


バビロニアに来て七日目の朝を迎える頃、氷河の小宇宙はほとんど燃え尽きかけていた。

瞬の悲しむ顔を見たくない――ただその一念だけで、氷河は、世界の七不思議、人類の歴史上最も華麗な庭、バビロンの架空庭園を、不眠不休で疲労困憊しながらも、正味六日で築きあげたのである。

アテナのためだと言われていたなら、彼には到底こんな奇跡は起こせなかったに違いない。

しかし、奇跡は起こった――否、氷河は奇跡を起こしたのだ。






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