夢にまで見た瞬王子のベッド! 氷河ガエルは、その場で鼻血を吹いてしまいそうでした。 瞬王子は、自分の枕の横に、レースのハンカチで、氷河ガエルのお布団を作ってくれました。 「さあ、できた。カエルさん、ここで眠ってね」 と、瞬王子は優しく言ってくれましたが、氷河ガエルは、そんなところで大人しくしている気など毛頭ありません。 氷河ガエルは、そそくさと瞬王子のお布団の中に潜り込もうとして――残念ながら、瞬王子に摘みあげられてしまいました。 「駄目だよ、カエルさん。そんなとこに入ったら、窒息しちゃうでしょ」 冒険好きな氷河ガエルに、瞬王子は少々心配顔。 瞬王子を安心させるために、氷河ガエルはとりあえず、聞きわけのいいカエルの振りすることにしたのでした。 けれど、やがて夜も更けて――瞬王子はすーすーと小さな規則正しい寝息を立て始めました。 ついに、その時がやってきたのです! 氷河ガエルは、いよいよ瞬王子の秘境探検に乗り出すことになったのでした。 瞬王子は白い夜着を一枚身につけているだけ。 秘境は、薄いヴェール一枚に隔てられただけの場所にありました。 さて、ところで。 ガリバー旅行記を読んだことのある方なら、小人の目に、大きな人間がどんなに醜く映るものなのか容易に想像がつくでしょう。 それは、人間を顕微鏡で覗くようなもの。 滑らかに見えていた肌には凹凸があり、白く見えていた皮膚は実はしみだらけ――かの本では、それはもう、人間の醜さをこれでもかと言わんばかりに赤裸々に描写していますよね。 けれど、瞬王子の身体は、小さなカエルの目で見ても、とても綺麗なものでした。 人間サイズの時には可愛らしく見えていた瞬王子が、カエルサイズで見ると、“綺麗”に変わるのです。 首筋も腕も胸も、滑らかで、温かく、やわらかくて優しい感触。 氷河ガエルは、カエルならではのサイズと機敏さを生かして、瞬王子の夜着の内側に潜り込み、水掻きのある手で、あちこちをぺたぺた触ったり、カエル特有の器用な舌でぺろぺろ舐めてみたり、それはそれは楽しい冒険をすることができたのです。 ですが、ちょっと夢中になって加減を忘れてしまったみたい。 なんと、ぐっすり眠っていたはずの瞬王子が、少しずつ、氷河ガエルのお触りに反応を示し始めたのです。 「あっ……あん……」 眠っているのに、いいえ、眠っているからこそなのでしょうか。 瞬王子の声はひどくなまめかしく、やがて、それは可愛らしい喘ぎ声に変わっていったのです。 氷河ガエルはひどく興奮してきました。 こうなったら、どこでお触りを止めていいのかがわからなくなります。 それで、ますます、ぺたぺたぺろぺろ、ぺたぺたぺろぺろ。 「あ……ん、ふっ……」 瞬王子の声はますます色っぽくなっていきます。 人間の姿でいたならば、とっくに氷河ガエルは氷河オオカミになっていたことでしょう。 けれど、悲しいカエルのさだめ。 どんなに瞬王子の声が色っぽくても、氷河ガエルにはお触り以上のことはできないのでした。 氷河ガエルがそんな自分の運命を呪い始めたその時でした。 それまで、意味のない音だけを発していた瞬王子の唇が、氷河ガエルの名を呼んだのです。 「氷河……」 それは、ただの寝言。 きっと、瞬王子は夢でも見ていたのでしょう。 いったい、瞬王子はどんな夢を見ていたのか――まあ、瞬王子に限ってえっちな夢ではないでしょうが。 それで、氷河ガエルは我慢できなくなってしまったのです。 「瞬……!」 カミュ代理国王のかけた魔法も、燃え上がる愛と欲望の前には無力でした。 氷河ガエルは、いつのまにか元の氷河王子の姿に戻っていたのです。 おまけに、とても都合のいいことに、最初から裸。 となったら、することはもう一つしかありません。 「瞬……」 氷河王子に戻った氷河ガエルは、瞬王子に、それはそれは熱烈なキスをしたのです。 身体が記憶しているカエルの舌の器用さで、寝た子も起きるようなキスを。 「氷河……?」 もちろん、瞬王子はすぐに目を覚ましました。 まだ少し寝ぼけているのでしょうか。 裸の男に組み敷かれているのに驚きもせず、 「どうしてここに?」 なーんて呑気なことを訊いてきます。 ここで、大声を出されては、色々まずいことになりますから、氷河王子は瞬王子を驚かさないように、耳許で静かにゆっくりと囁きました。 「おまえが呼んだから」 「え?」 「初めて会った時から、こうしたかったんだ」 随分、直截的な愛の告白です。 でも、まあ、ずっと興奮状態が続いていて、そうそう悠長に構えていられる状態でもなかった氷河王子にしては、問答無用でコトに及ばなかっただけでも紳士的と言えるでしょう。 氷河王子の手の方は、あまり紳士ではありませんでしたが。 「あっ……え? えっ !? 」 壁に叩きつける余裕なんて、瞬王子にはありませんでした。 氷河王子の手の速いこと速いこと。 カミュ代理国王の光速拳も真っ青です。 「あ……そんな……でも、ああ……っ!」 人間の姿になっても、ぺたぺたのぺろぺろ。 氷河王子のすることは、最初のうちは、氷河ガエルと大差ありませんでした。 「氷河、そんなこと あああああ……っ!」 氷河王子の存在に気付く前に、瞬王子は既に全身くまなく愛撫し尽くされていたのです。 既に、受け入れ態勢は万端でした。 ――とまあ、そういうわけで。 その夜、瞬王子は氷河王子にぱくりと食べられてしまったのでした。 |