「実は、氷河の失踪は、そのカエルが元凶でしてな。そのカエルを壁に叩きつければ、氷河は戻ってくるんです」

氷河王子が、よその国のお姫様と結婚する気がないのであれば、これはもう瞬王子に氷河ガエルを壁に叩きつけてもらうしか、魔法を解く術はありません。
カミュ代理国王が自分でかけた魔法なのに、自分で解けないのか? なんて思ってはいけませんよ。
魔法というものは、そういうものなのです。


「そ……そんなことできません! そんなことしたら、カエルさんが死んでしまう……!」

瞬王子は、カミュ代理国王の言葉に驚いて、ちらりと後ろを振り返りました。
瞬王子の背後にある飾り棚の上に、氷河ガエルがいたからです。
瞬王子は、カミュ代理国王とのお話が済んだら、氷河ガエルと一緒におやつを食べる約束をしていたのでした。

氷河ガエルの姿を認めると、カミュ代理国王は瞬王子に偉そうに命じました。

「たかがカエル一匹のことだ。さあ、早く、そいつを壁に叩きつけなさい! そうすれば、氷河は戻ってくるんだ」

王位なんか、カエルの面にかかった水くらいにしか考えいない氷河王子のことです。
瞬王子といいことができるなら、人間の姿になど戻らなくてもいいと考えているに違いない――と、カミュ代理国王は実に的確に氷河王子の考えを見抜いていました。
けれど、それでは困るのです。
事は、ウートポス国の王位継承問題に関わっているのですから。


けれど、
「そんなこと、できません!」
瞬王子は、カミュ代理国王の命令に従う気色も見せませんでした。


「き……君は、氷河が戻らなくても構わないというのか !? 」
「カ……カエルさんは、僕の大事な友だちなんです! いつも僕の悩みを聞いてくれて、僕を励ましてくれて、カエルさんが氷河の失踪の元凶だなんて、絶対嘘です!」

「何を言っているんだ、君は! そんなみっともないカエルの一匹や二匹、どうなったって構うことではないだろう!」
「み…みっともない? カエルさんのこと、そんなふうに言わないでください! カエルさんは……とっても優しくて――」

瞬王子の都合など、この際聞いてはいられません。
カミュ代理国王は、顔に似合わず強情な瞬王子の言葉を乱暴に遮りました。

「君は、氷河とカエルのどっちが大事なんだ!」
「どっちも大事です!」

「では、どちらを選べと言われたら――カエルと氷河のどちらかが消えないと、もう片方が死ぬとしたら、君はどちらを選ぶんだ !? 」

カミュ代理国王に残酷な二者択一を迫られた瞬王子は、辛そうに唇を噛みしめました。

瞬王子は氷河王子が大好きでした。
どうしてこんなに好きなのかと、自分で自分が不思議になるくらい、好きで好きで仕方がありませんでした。
けれど、氷河ガエルのことも大好きだったのです。
氷河ガエルは、いつも瞬王子の側にいて、瞬王子を力づけてくれました。


長い時間を置いて、瞬王子が出した答え。
それは、
「え…選びません カエルさんが死ぬくらいなら、僕も一緒に死にます…… !! 」
――というものでした。






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