「瞬。おまえは──氷河のことを忘れてしまったんだよ。心因性の……対象喪失による解離性健忘。おまえの記憶からは、氷河に関することだけがすっぱり切り取られてしまっている」 「え?」 アルバムのぺージをめくっては瞬きを繰り返している僕に、紫龍が、ひどく気遣わしげな声をかけてきた。 「……半年前に、俺たちは敵と闘っていた。憶えてるか」 「…………」 それは憶えてる。 僕たちの、とりあえず、今のところは最後の戦い。 聖域に、諍いを好む族が現れて、僕たちは、12宮戦以来初めて聖域で敵を迎えうった。 でも、あの敵たちは何と言うこともない――神とかいうものがついているわけでもなく、信じるものがあるでもない、ただの常人にない力を持ってしまっただけの集団で、僕たちは難なく撃退して――。 撃退したはずだった。 「半年前にさ、おまえ、氷河が自分を庇って死んだと思い込んだんだよ。いや……確かに死んだんだけどさ」 「…………」 忘れていたのは僕の方? 「俺たちが駆けつけた時、おまえは血だらけの氷河を抱きしめて、心神喪失状態で──病院に運ばれて、目が覚めた時には、おまえは氷河のことをすっかり忘れていた」 「氷河の方はすぐ再生措置が施されて、丸々半日、死んだ身体に無理矢理血液を循環させ、ショックを与え続けて――後遺症も結構なものだったが、しかし生き返ったんだ」 星矢と紫龍の声が、どこか遠くの方から聞こえてくる。 夢路の向こうから――。 |