一度、僕は、氷河に訊いてみたことがある。 「氷河は、敵を倒すことが好きなの?」 「人を殺すことが好きなの?」 ――と。 彼は、 「それが俺の仕事だ」 と前置いてから、 「自分より弱いものに対して絶対的優位に立ち、その断末魔の声を聞くのは心地良い。自分の強さと力を感じ、信じられる。自分が生きているんだってことを感じられるし、自分が生きていることを幸福だと思うこともできるな」 と、低い声で続けた。 そういうものなのだろうか? それが、戦う者の普通の感覚なのだろうか? 「じゃあ、僕は……聖闘士失格なの? それが敵でも、僕は、誰かを傷付けるのが恐い。 どうして人は――愛し合ってだけ生きていけないの」 初めて人を殺した時、僕は、泣いて泣いて泣いて、こんな思いをするくらいなら、自分が死んだ方がずっとましだと思った。 なのに、氷河は、その経験を悦びとして受けとめたというのだろうか。 あの時の僕を、氷河は知っている。 到底聖闘士としてやっていけるはずがないと、あの時、彼は、僕を情けなく思ったに違いない。 氷河は――僕を責めたりはしなかった。 あの時も、今も。 夢のような――ううん、夢そのものを語る僕を、氷河は嘲ったりはしなかった。 彼は、僕に、静かに微笑した。 「おまえはそれでいいじゃないか。おまえがそんなふうに優しい分、俺みたいに人の血を見るのが好きな人間がいて、俺を満足させるために、おまえはおまえの分の敵を俺にまわしてくれているわけだ」 その微笑と同時に僕に向けられる言葉さえなければ、彼は本当に優しい人間に見えた。 「持ちつ持たれつってことだ」 そんな言葉を優しい目をして言ってのける氷河が、僕は恐かった。 氷河の瞳は青くて、綺麗で、とても優しく見えるのに――。 |