『別に。好きでやっていることだからな』

『自分より弱いものに対して絶対的優位に立ち、その断末魔の声を聞くのは心地良い。自分の強さと力を感じ、信じられる。自分が生きているんだってことを感じられるし、自分が生きていることを幸福だと思うこともできるな』

『おまえはそれでいいじゃないか。おまえがそんなふうに優しい分、俺みたいに人の血を見るのが好きな人間がいて、俺を満足させるために、おまえはおまえの分の敵を俺にまわしてくれているわけだ』

『持ちつ持たれつってことだ』

――あれは、氷河のあの言葉は全部、僕に負い目を感じさせないための嘘だったっていうの?


そうだ、僕は、人を傷付けるのが嫌いだ。
人間はもっと優しくなれるはず、愛し合って生きていけるはずだ。
そう、信じてる。
信じてた。

でも、僕は、それで――そう信じることで、信じているために、氷河を傷付けてたの?
そして、そんな氷河を恐がって気味悪がっていたの?



「おまえなぁ、俺たちはおまえのこと心配して言ってるんだぞ! 今からでも、人を傷付けるのは嫌だって、瞬に言え。きっと、瞬は喜ぶさ。おまえが殺人狂なんかじゃないって知ったら」

「そして、自分の敵を自分で片付けなければならなくなって、瞬はまた泣くのか? 俺はまた、そんな瞬を見なきゃならないのか? 冗談じゃないぞ! 俺が勝手にしてることに口出しは無用だ!」


星矢たちに言葉を叩きつけるようにそう言って、氷河がドアの方に歩いてくる。
僕は、その場を動けなかった。


「瞬……」


驚いて目をみはった氷河の顔を、僕は泣きたい気分で見上げた。






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