「僕は死なないよ。死んだら、星矢や氷河が泣くから」
「氷河は泣かないよー。レイケツカンだから。俺はいっぱい泣くけど……」

星矢の言葉の端々に出てくる氷河への対抗意識に、瞬は内心苦笑していた。

「星矢は知らないかもしれないけど、氷河はほんとはすごい泣き虫なんだ」
「……そーなのか?」
「おまけに、寂しがりやで、意地っ張りで、我儘で」
「一人で眠れないんだもんな。俺が瞬と一緒にいると蹴飛ばすし」

本当にそんなことをしているのかと、瞬は、一瞬、横目で氷河を睨みつけた。
5歳の子供と同レベルの男は、素知らぬ顔をしている。

「そうだね。だから、僕は死なない」
「ほんと?」

星矢は、心底から不安なのだろう。
それは、こんな時代でなかったら、5歳の子供には無縁であっていいはずの不安である。

瞬は、星矢の不安を消し去るための笑顔を作った。
「じゃあ、賭けようか。半年経っても、僕たちが生きてたら、星矢は自分のこと『僕』って言うの」

「俺も、滅びるなんて思ってないもん。ただ、テレビの変なおっさんが……。氷河は? 氷河も人間はみんな滅びるって思ってるのか?」

氷河は辛辣で意地が悪いだけに嘘を言わない――というのが、星矢の認識らしい。
真実を知りたい時、星矢は瞬よりも氷河に尋ねることの方が多かった。

恋敵をすがるような瞳で見上げる星矢に、氷河はさらりと答える。

「何にでも終わりはあるさ」

「氷河……!」
瞬が、雪の上についていた膝を上げ、慌てて立ち上がる。


星矢は、氷河を、真剣な目で見詰めていた。






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