(……氷河……?)

記憶が薄れるほど昔のことではない。
ほんの数年前に、初めて、氷河に求められた時。
氷河は、今の不比等と同じ目をして、瞬にそう告げた。

瞬は、氷河の求めるものを彼に与え、そして、求めるだけでなく愛する方法を、ゆっくりと時間をかけて教えてきた。
大切なもののために命を捨てる愛し方ではなく、大切なものを生かし、自分もまた生き続ける愛し方。

兄や仲間たちに教えてもらったその愛し方を、ゆっくりと、瞬は氷河に覚えさせてきた──のだ。


瞬は、軽い目眩いに襲われていた。
顔も、髪も、瞳も、匂いまでが氷河と同じ何者かが、氷河と同じものを瞬に求めてくるのである。
どうすればいいのか、瞬にはわからなかった。

(氷河……どうしよう……この人、あの頃の氷河とおんなじ……。氷河……!)

胸中で氷河を呼びながら、瞬は混乱していた。

瞬は、ふいに、これまでわかりすぎるほどにわかっていたはずのことが、わからなくなってしまったのである。
自分が誰を――否、自分が氷河の何を愛したのか――。






【next】