「帰ってこないかな、不比等さん」 初めて、瞬が、その名を口にする。 「わざわざ探しになんかいかなくたっていいのに。僕たちにとっては、彼も唯一無二だよ。氷河と同じじゃない。僕、あの人のいい友だちになれると思うんだけど」 少し気落ちしたように肩を落として、小さく呟いた瞬に、氷河は目だけで作った微笑を向けた。 「きっと、帰ってくるだろ。その時には、俺のDNAと奴のDNAが違うものだってことを教えてやることにしよう」 「え?」 「俺のDNAには、おまえに会ってから、おまえがいないと生きていけないというデータが新たに書き込まれているからな。奴にDNAを提供した時とは、塩基配列が違う」 真顔でそんなジョークを口にする氷河に、瞬は一瞬きょとんとし、それから、ぷっと吹き出した。 「そうだね。クローンだって何だって、意思を持って生き始めた時から、それぞれに変わっていくんだよね」 実際、不比等には、氷河のようにくだらない冗談を言うことはできないだろう。 「帰ってこないかな、不比等さん」 瞬はもう一度そう言うと、肩をすくめるようにして微笑を作った。 「そんな平和に事が収まるかぁ? 奴が帰ってきたら、瞬を巡って、氷河と奴との間に血を血で洗う紛争が勃発するだけだと思うんだけど……」 「──うむ。見ものだな」 彼等の大切な仲間たちが、互いに互いを唯一無二だと信じ込んでいる二人の危機感のなさに呆れていることになど、氷河と瞬はまるで気付いていなかった。 Fin.
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