氷河は、自分の幸福追求に躊躇を覚えない男だった。 そして、性急な男でもあった。 自分が幸せになるために、氷河は早速、瞬を自分のものにするべく行動を開始したのである。 自分を抱きしめた氷河の手が妖しく蠢きだしたのに、つつましやかなヤマトナデシコが困惑してみせる。 「氷河様、こ……ここは、洋間ではなくて、鍵や防音の設備が――」 「親の認めた許婚同士が何をしたって、文句は出ないだろう。おまえが家中に響くような声をあげなければ、大丈夫だ」 「氷河様、そんな……」 ヤマトナデシコに、そんなはしたない真似ができるわけがない。 とは言え、ヤマトナデシコのつつましやかさが、毛唐男の大胆な挑発にどこまで抵抗できるかは、大いなる疑問だった。 氷河の手が、瞬の着物の裾から、瞬の身体の中心に忍び込み、近付いていく。 ヤマトナデシコは、その手を振り払うことができず、かと言って、積極的に受け入れることもできず、ひたすら自身の身体を閉じようとしていた。 「嫌なのか」 「は……恥ずかしいんです」 「恐がっているよりはいいな」 「氷河様……っ!」 瞬には、氷河に逆らうことなど思いもよらないことである――らしい。 氷河の膝の上に引き上げられた瞬の身体は、耐えることが義務づけられた羞恥のせいで、小刻みに震えていた。 「嫌か、嫌じゃないのかだけ答えろ」 「嫌だなんて、そんなことあるはずが……ああ……っ!」 瞬の唇の上にあったはずの氷河のそれは、いつの間にか瞬の心臓の上にあった。 「そうだろうな。瞬の心臓は破裂しそうなほど高鳴っている」 「あ……」 瞬の胸の上で、瞬をからかうように、濡れて生温かいものが行き来する。 瞬の身体を弄っているのは、氷河の唇と舌だけではなかった。 「心臓だけじゃないぞ、ここも」 「ひょ……がさま、そんなとこ……」 喘ぎながら、それでも、瞬の中には、氷河に抗うという考えは生まれてこないらしかった。 長い時間をかけて“躾けられて”きたものは、容易に振り払えるものではないらしい。 その分が、羞恥という形で表情と身体に出る。 「恥ずかしがってる瞬が可愛いから、ついいじめたくなるんだ」 「氷河様……」 瞬は、洩れそうになる声を飲み込もうとして、必死に耐えていた。 その恥じらいの表情が、質が悪いほどに扇情的で、氷河の身体に火をつける。 鍵もなく、防音設備もない、紙でできている和室の趣の程を、氷河は初めて実感した。 |