文化祭当日は、これまた大忙しだった。

食料の調達、同人誌には所有者がわかるように付箋をつけ、むしろ集まりすぎて大変なことになりつつあるおやつの置き場に四苦八苦。

だが、それは、むしろ、嬉しい悲鳴――少なくとも、瞬にとっては――だった。

上映会開始と同時に、黄金聖闘士たちは、早くも終わりの見えない酒盛りに突入している。 
ここまで来るともう、不慮の事故が起きさえしなければ、イベントの成功は決まったようなものだった。


「……すごい。思った以上にお祭り好きだね、ゴールドさんたち」
「文化の意味はわかっていないようだがな。だが、まあ、宴会が始まってしまえば、何か突発事故でも起きない限り、俺たちスタッフはもうすることもないし――」
「そんなことないよ。飲み物の補充とか、ゴミの処理とか、仕事はたくさんあるでしょ」


まだまだやる気満々の瞬に、氷河は眉をひそめた。
彼は彼で、この時をずっと待ち続けていたのである。

「…………してない」
「え?」
「もう一ヶ月もしてない」

氷河が何のことを言っているのか、瞬にはすぐにはわからなかった。
わかった途端に、思い切り赤面する。 

「そ……そんなこと言ったって……。文化祭の日にちは近付いてくるし、うまくいくのか不安だったし、それどころじゃ……」
「今夜こそと思って誘いをかけると、おまえはもうぐったりしてて、俺の手を払いのけた」
「だって、僕、ほんとに他のこと考えられないくらいに……」
「俺のことも考えられないくらいにか」

その問いかけに対する瞬の返事がどんなものであろうと、いずれにしても氷河の不機嫌を解消することはできなかっただろう。
氷河としては、瞬が合宿企画発案責任者の任から解放されるこの時を待ちに待ち、我慢に我慢を重ねて、いい加減、限界の限界に達しかけていたのだ。
これ以上待っていたら、氷河は某ベルばらのアンドレを笑えなくなりそうだった(意味不明)


「おまえ、祭りの真の醍醐味を知っているか」
「?」
「祭りの騒ぎから離れたところで、別の祭りを楽しむことだ」

それが××と言うのであれば、氷河の文化もなかなか大した文化である。

「でも、僕たちには企画発案者の責任が――」
「ああいう祭り好きたちは、自分たちで盛り上がる術を知っているさ。騒ぎが終わったら、解散するだけだし、あの山盛りの差し入れと酒の山だ。食料が不足するということもないだろう」

「もう……」

だが、氷河に意味ありげな目で見詰められると、瞬もそれ以上の抵抗をする気にはなれなかった。
文化祭の成功はほぼ確実。
もう、憂いはないのだ。

――寂しいことに。






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