……と、ここで終わりを告げたなら、青銅聖闘士たちが企画発案した黄金聖闘士たちの文化祭はまだブンカの香りを残すものだったろう。
が、そうはいかないのが、祭りの祭りたるゆえんである。


「瞬ーっっ!」

瞬と氷河が、祭りを抜け出してナニをしているのかぐらい察しているはずの星矢の雄叫びが、突然、教皇の間に続く石段の上から響いてくる。

「大変だーっっ、手ぇ貸してくれっ!」
「星矢……?」

瞬が光速のスピードでもって身仕舞いを整えるのと、星矢が、瞬たちのいる階段の中腹に転がり落ちてくるのが、ほぼ同時だった。

「ど……どーしたの、そんなに慌てて」
「そ……それがー……」

星矢の、動転して、まともな日本語になっていない説明を要約すると。

十二宮戦でアテナ・沙織の存在を認め、青銅聖闘士たちの絶えることのない闘いの運命を知った黄金聖闘士は、地上に真の平和が訪れるその日まではと、
「願掛けの禁酒してたらしいんだよなー」

それを言うなら、禁酒ではなく断酒である。

「それが急に大宴会だろ。見事に酔いつぶれちゃってさー。呼んでも返事はないし、呼吸は乱れまくりだし、中にはゲロしてる奴もいるし、なーんか体温も下がってきてるような気がすんだよなー……」
能天気をアニメにしたような星矢が、さすがに不安そうな顔である。

「急性アルコール中毒にはブドウ糖補給って聞いたことあるとか言って、今、紫龍が、全員の口に甲州ブドウを突っ込んでるけど……」

そして、さすがの紫龍も仰天しているらしい。
おそらく、倒れた黄金聖闘士たちの中には老師もいるに違いない。
いくら若作りに再生したとは言っても、齢261歳のご老体である。
些細なことでぽっくり逝ってしまわないとは、誰にも言い切れないのだ。

「そ…そんなことして、喉に詰まったらどーす……ううん、それより、誰がっ! 誰が倒れたのっ! 無事なのは誰と誰っ !? 」
「誰って……だから、黄金聖闘士全員がブッ倒れたんだよ」

「…………」


黄金聖闘士たち全員が、地上の平和を願って酒を断っていた。
こういう事態でなければ、それは感動していいことである。
むしろ、感動しまくるべきことである。

こういう事態でなかったならば。


瞬に、感動している暇はなかった。






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