毛布の端から目だけを覗かせて、瞬は妙に嬉しそうに――幸せそうに、俺を見上げていた。
それが、どうしようもないほど可愛い。

――殺してやりたいほどに。


そうだ、今の俺は平常心じゃない。
だから、言えるんだ。

「人が人を好きになるのは――」

俺は、今度こそ本当に、目が覚めた。
どうして俺は、こんな簡単なことに気付かずにいたんだろう。

「幸せになるためなんだろうな」

ここまでおめでたい馬鹿になれるんだ。
そして、朝の光の中の瞬の笑顔を見ているのが、こんなに――嬉しい。

絵に描いたような幸福の中に、いつの間にか俺は放り込まれていた。

絶対に平常心から出たんじゃない俺の言葉を聞いて、瞬の笑顔はますます輝度をあげていく。


「あ……あのね、沙織さんがね、運転の練習したいのならって言って、小さなクーペを僕にくれたんだ。今日は合意の上で、僕とドライブに行きませんか」

瞬のご丁寧なお誘いに、俺はぶっきらぼうな返事を返した。
「運転は俺がするぞ」

自分自身も、ましてや瞬も思い通りに動かせないのなら、せめて車くらいは自分の意思通りに転がしたい。

「その方が安心だね」

一人で無意味な意地を張り――自分では気付かぬうちに、めでたくも幸せな男になり果てていた俺を、瞬の笑顔が完全に包み込む。



俺は、本当におめでたい男だ。





Fin.







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