「結構いるぞ。吸血鬼も、他人のエネルギーを無意識のうちに吸引している“人間”も。生きているくせに他人のオドを吸入しているのは、生への執着が強い奴か、芸術家に多いな」

事もなげに、氷河は、奇怪な怪物の話を続ける。
紫龍は、今では、その存在を信じてしまっている自分自身にぞっとしていた。
今、自分の目の前にいる男は死人――なのだ。

「氷河……」
その名を呼び、だが、続く言葉が出てこない。
紫龍には、彼に何を言うこともできなかった。

「やめろと言うのか? 俺に死ねと? そして、瞬をひとりにして、泣かせて──」

それが事実ならば当然、氷河はもう一度、死を迎えることになるのだろう。
あるいはそれが氷河の狂信に過ぎなかったとしても、氷河が他人の精気を奪うのをやめた時、その狂信が氷河を殺してしまわないと、誰に言えるだろう。

それが事実だったとして――氷河がいなくなれば、瞬の身体は常人と同じように成長を始め、成熟し、そして老いていくようになるのかもしれない。
自然の摂理にのっとって。
それで、瞬は、少なくとも“異常な”人間ではなくなる。

そして、それと同時に、氷河を失った瞬は、この世で最も不幸な人間に成り果てるのだ。






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