「氷河、見て! あんまり可愛いから買ってきちゃった!」

紫龍は言うべき言葉を失い、氷河は言うべきことを言い終えて──沈黙に支配されかけていた部屋に、頬を薄紅色に染めた瞬が飛び込んでくる。

瞬が手にしているのは、クリスマス用の小さなリースだった。
淡い緑色の光を放つファイバーでできたそれには、数種類の木の実とリボンと、そして、銀色の十字架が飾られている。


「あれ? 紫龍?」
昨日名残りを惜しんだばかりの友人の姿をその場に見い出して、瞬が首をかしげる。

「忘れ物をしたんだと」
氷河は、瞬に余計な危惧を抱かせまいとして、実にありきたりな説明をしてみせた。

「忘れ物? 紫龍ってば、慎重なようでうっかり屋さんだね。何を忘れたの」

あの頃のままの笑顔で──瞬は尋ねてくる。

「……今、帰ろうとしていたところだ。忘れ物をしたと思ったんだが、どうやらそれも気のせいだったらしい」

瞬は、紫龍のその言葉を聞くと、一瞬間だけ瞳を見開き、そして破顔した。
瞬の笑顔は、紫龍の記憶に残っている十数年のそれと、寸分違わなかった。

瞬と彼の仲間たちが、生きることの意味を考える間もないほど夢中で生き、若く、その命が最も輝き、美しかったあの時代。


瞬は、あの頃と同じ姿で、紫龍の前にいる。

瞬にとって、氷河にとって、彼等の仲間だった者たちにとって、今の瞬の姿がどういうものなのかということは、さして重要なことではないような気がした。

瞬は生きている。
そして、氷河との生活と氷河を愛し、氷河に愛され必要とされている。
それ以上に重要なことなどあるわけがないのだ。


紫龍は、今はただ懐かしかった。
切ないほどに――瞬の笑顔が懐かしかったのである。






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