氷河の姿が見えないことに瞬が気付いたのは、そのやりとりがあった翌々日のことだった。

瞬は、ふと気が付くと氷河に見詰められている──という状況に慣れていた。
氷河の視線が自分に注がれていない時間が長く続くと、妙な不安に襲われる。
──ということに、瞬はその日、初めて気付いた。


「紫龍、氷河を知らない?」
で、とりあえず、瞬は、紫龍に氷河の居場所を尋ねるところから始めてみた。

城戸邸が世界に誇る世紀のマッドサイエンティストは、彼の仕事場(?)で、何やら忙しそうに立ち働いていた。
例の電話ボックス大・豆腐型タイムマシンの置いてある城戸邸のパーティーホールで、実はCPUも記憶装置もグラード財団のそれを横から掠め取っている彼の愛機のキーボードを、椅子にも掛けずに、光速ブラインドタッチで操作している。

氷河の行方を尋ねられた紫龍は、無言という返事を瞬に返してよこした。

「……?」
普段は、何も聞かなくても、いらぬことまでべらべら喋ってくれる紫龍の沈黙。
瞬は、紫龍が氷河の行方を知っていることに、すぐに気付いた。
「紫龍?」

「あー……」
瞬に重ねて問われた紫龍が、実に言いにくそうに、しぶしぶ口を開く。

「俺の作ったタイムマシンにはな、おまえの脳波と氷河の脳波がインプットされている」
「え?」
ふいに巨大豆腐の話を持ち出され、瞬は虚を衝かれた格好になった。

「まず、おまえたちを過去に飛ばす。それから、飛ばされた先で一定の時間が過ぎたら、おまえたちの脳波をキャッチして現代に連れ戻すように作られているんだ」
「へ……へえ? そうだったの? でも、それがどうか……」

普段の瞬なら、それで事情を察していただろう。
だが、瞬には、すぐには考え及ばなかったのである。
紫龍の作った箱を毛嫌いしていた氷河が、まさか一人でその箱の中に入っていくことがあろうなどとは。






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