瞬が連れて行かれたのは、ピラミッド神殿の中にある、かなり広い空間だった。
アステカの神像が東に位置した方角に立ち、その前には、大型の寝台ほどの大きさの祭壇が置かれている。

もしかしたらそれは、これまで幾百幾千人もの生け贄を捧げられてきた祭壇なのかもしれなかった。
ケツァルコアトルは生け贄を求めない神だが、彼が彼の民たちの元に帰ってくるまで、生け贄は捧げられ続けなければならないことになっていた。


「あなたも神か? あるいは神の使いか?」
瞬をその場に案内してきた若者たちの報告を受けた王らしき男性が、瞬に尋ねてくる。

「神に会わせてくれればわかります」
瞬はそう答え、王はその返答に頷いた。

神が出現したからなのだろう。
ひときわ豪華な装身具で身を飾っている王は、祭壇から一段低い場所に立つことに甘んじていた。



数分──あるいは、十数分ほど待っただろうか。
祭壇と神像の前に姿を現したのは、瞬が期待した通りの人だった。

その姿を目にした瞬は、マヤの遺跡のレリーフを思い出すともなく思い出したのである。

彼は、インディオの神官か王族のものらしい姿をしていた。

金色の髪に、白い羽飾り。
腰にはジャガーの皮のベルト。
むきだしの肌は、黄金の腕輪・首輪・胸飾りで飾られ、肩から長いマントを垂らしている。

マヤの影響を色濃く残すアステカの民たちは──無論、王も──氷河の前に、一斉に跪いた。






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