「氷河……!」 こんなにも簡単に思い通りに事が運ぶとは、瞬は思ってもいなかった。 氷河の名を呼び、側に駆け寄ろうとして、足を止める。 氷河の様子がおかしい。 尋常のそれではなかった。 彼は、瞬を見ても、顔色ひとつ変えなかった。 いや、変えはした。 初めて見る、自分と同じ人種に驚いたように、彼は瞳を見開いた。 瞬を瞬と認めているようには見えなかった。 「氷河……」 考えてみれば、生きているのに脳波を捉えられないというのはおかしなことである。 何か事情があって、平時のそれと重ね合わせられないほどに脳波が乱れているというのならともかく、今、瞬の目の前にいる氷河は、少なくとも一見した限りでは常態を保っているように見えた。 広間の一段高い場所から、氷河は、瞬を無言でじっと凝視していた。 瞬は、その眼差しに──見知らぬ他人を値踏みするような、その眼差しに──戸惑いを覚えたのである。 ひどく、居心地が悪かった。 「氷河、どうしたの。僕だよ」 氷河が、瞬の声など聞こえぬげに、側に控えていたインディオの青年に、何事かを命じる。 彼は頷き、瞬の方に向き直ると、その場から別室に案内する旨を、瞬に告げた。 氷河の態度に懸念を覚えながら、瞬は、その青年の指示に従ったのである。 氷河の方に、インディオたちの前では話せない事情があるのかもしれないと考えて。 |