瞬が連れていかれたのは、神殿内の一室だった。 壁には色鮮やかなタペストリーが飾られていて、石の冷たい感触が感じられないようになっている。 寝台の上にある寝具は、おそらくは鳥の羽を布で包んだものなのだろう。 インディオたちには神聖な動物であるばずのジャガーの皮が、寝台の足許に敷かれている。 それは、どう考えても、神か王にのみ許された贅沢である。 そういう者として扱われているのだから、身の危険はないのだと、瞬は無理に自分を納得させた──させようとした。 「氷河……」 信じられないほど軟らかい寝具の上に腰をおろし、瞬は、氷河の名を呟いた。 まるで知らない者を見ているように冷ややかな氷河の視線を思い出す。 記憶喪失──。 それが瞬の考えた可能性だった。 でなければ、氷河が瞬にあんな冷静な視線を投げてくるはずがないのだ。 あるいは、インディオたちの前では、他人を装わなければならない事情があったのか──。 氷河と言葉を交わすことさえできれば、その理由がわかるはずだった。 |