氷河が、瞬の待つ部屋に姿を現したのは、メキシコの太陽が西に傾き始めてからだった。

「氷河、いったい何があったの!」

長く待たされすぎて、不安と苛立ちの間を行き来していた瞬は、氷河の姿を認めるとすぐに彼の側に駆け寄って、インディオの姿をした氷河に尋ねたのである。

インディオたちの前で神の威厳を装う必要がなくなったためか、羽飾りや胸飾りは外されていた。
まるで外し忘れたかのように、金色の腕輪だけが、その二の腕に輝いている。

「氷河……?」

瞬が期待していた、仲間に向ける優しい言葉は、氷河の唇にのぼってこなかった。
代わりに瞬は、何も言わない氷河に抱きすくめられ、唇を奪われていた。

「……!」

信じられないという思いが先に立って、瞬は、口腔内を蠢く氷河の舌に、かなりの時間逆らえずにいた。
戸惑いの時間を過ごしてから我に返り、氷河の唇から逃れるために、顔を横に背ける。
氷河は、しかし、そんなことは意に介さず、今度は、瞬の耳朶に舌を這わせてきた。

身体を引き剥がそうとしても、氷河は何も言わない。
だが、瞬を離そうともしない。
氷河の目は、瞬が見慣れたそれではなく、見たこともないほど冷たく冴えて──そして、その奥に熱いたぎりを潜ませていた。

否、氷河のそんな眼差しを、瞬はこれまで幾度も見たことがあった。
氷河が時折そんな目をして、自分を見詰めていることを知っていた。
もっとも瞬は、これまでずっと、その視線に気付いていない振りを続けてきたのだが。
氷河も、瞬が気付いていることに気付いていない振りをしてくれていた。

氷河が嘘をついていることを、自身を偽っていることを──おそらくは瞬のために──瞬は知っていた。
瞬にその視線を気取られると、彼は、それをすぐに笑いの中に消し去ってしまった。

それが、今はまっすぐに瞬に向けられている。


「氷河……正気? 僕が誰なのかわかってる?」

氷河の吐息に怯えながら、瞬は氷河に問いかけた。
氷河からの答えはなく、答えを返す代わりに、インディオの姿をした金色の髪の男は、両の腕で瞬を抱き上げた。
そして、その身を寝台に運ぶ。

まさかと思った瞬間に、瞬は、氷河にのしかかられていた。






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