「う……嘘……! 氷河、冗談はやめ……!」

瞬の声が氷河の唇に絡めとられ、喉の奥に押し戻される。

この状況が嘘でも冗談でもないということに思い至ることが、瞬にはなかなかできなかった。
氷河がこんなことをするはずがないのである。
これまで、瞬のために、下手な嘘をつき通してくれていた氷河が、今更。

瞬は、氷河と同じ色の髪と瞳を持ったこの男が、氷河ではない可能性を考えようとした。
本物の氷河はどこか違う場所にいて、今、自分の喉に、まるで噛みつくようなキスをしているのは、この時代の、氷河に良く似た他の男なのではないかと。
だが、それは無理な推論だった。

彼がもし氷河ではなく、この時代の人間だというのなら、瞬の洋服の隠しボタンやファスナーを奇異に思うこともなく外してしまえるわけがない。
それ等は、今から500年も後の時代の発明品なのである。

瞬はあっという間に、氷河の下に、身体に何もまとっていない彼自身をさらされていた。
「こ…んなの嘘……氷河、どうして……」

羞恥心など感じている余裕もない。
氷河は性急に瞬の身体を、彼の意思に従うものに変えようとして――捻じ伏せようとして――瞬の身体に、その指で、舌で、胸と脚で刺激を与え始めた。

肌と肌が触れ合う音がする。

氷河の不可解な態度に不安を抱き、緊張に支配されていた瞬の身体は、突然与えられ始めた愛撫に驚き、だが、何かを考える時間さえ与えられなかったせいで、怯え身構えることすらできずに──徐々に反応を示し始めていた。


もともと憎からず思っていた相手なのである。
なぜか同性だということに罪悪感さえ覚えず、いつかはそういう間柄になるのだろうと思っていた相手なのだ。
「ひょう……が……」

だが、その時は、こんな形で訪れるはずではなかった。

「ああ…ん……っ」
愛撫を受け入れてしまった者の発する甘い声を洩らしてから、瞬は氷河に哀願した。
本当に、泣いてしまいたかった。

「氷河……冗談はやめてよ……」

だが、氷河の目と耳には、瞬の声も表情も認識できないらしい。
当然だろう。
肉食獣が、自分の獲物の涙に心を動かされていたら、彼自身が生きていけないのだ。

氷河の身体は、獰猛なジャガーのように、瞬を貪り食らい始めていた。
もはや止められないことが、瞬にもわかった。

(そんな……こんなことって……)

瞬の驚愕と困惑を遮ったのは、他ならぬ瞬自身の声だった。
それは、完全に甘え、喜び、今瞬を抱いている男に媚びてさえいた。






【next】