新大陸にだけ住む獣の牙と爪――。

彼にとって、獲物を食らうことは、自身が生きるために必要な自然の行為で、誰も妨げる権利を有していないことなのだろう。
瞬を齧り、舐め、味わうことに、氷河はまるでためらいがなかった。

瞬を貫く時にも、氷河は一瞬の躊躇も見せなかった。
加減も気遣いもなく、彼は瞬の中に押し入ってきた。

「ああっ……!」

肉食獣の爪に押さえつけられた小動物は、恐怖の時が過ぎると、自分がその力強い獣の血肉になることを思って、陶酔をさえ覚えるものなのかもしれない。
獣の舌に舐められつくした後の瞬の身体は、おそろしく熱くなっていた。

そうでなかったら、瞬は氷河の行為に、自分の身体を引き裂かれるという印象をしか持てずにいたに違いない。
氷河は、それほど荒々しく、瞬の中に入ってきた。

そして、瞬の身体は、自分の中に氷河を迎え入れていた。
歓迎していたと言ってさしつかえないだろう。

瞬の中は、熱く潤み、たぎっていた。
氷河が、その熱に呻き声を洩らすほどに。

氷河に突き上げられるたびに、瞬の唇は、全く意味のない言葉を──むしろ現実に反した言葉を──嘘を──吐き出し続ける。
「やめて、お願い、氷河、もう……」

その言葉とは裏腹に、瞬の身体は、氷河をなお奥に引き込むためにだけ動いていた。

「ああ……ん……あ…ああ……あ…っ」
意味のない喘ぎの方が、瞬の声はよほど正直だった。


氷河を受け入れてびくびくと痙攣する瞬の内部が、氷河を舐め始める。
先程までの瞬がそうだったように、今度は氷河の方が、蠢く瞬の舌に陶然とし始めていた。

瞬の心はともかく、瞬の身体は、そんな氷河を可愛いと思い、愛しいと感じ、からかうような舌なめずりを繰り返すのである。

そんな自分を、瞬は、大きくのけぞったあられもない体勢で、自覚していた。
そして、自問していた。

とっくに準備はできていたのに、それでも自分が氷河の目から逃げていたのはなぜだったのか──と。

氷河は、まるで迷いのな色も見せずに、それを生きるために必要なことなのだとでも言うかのように、瞬と交わることを続けている。

「やめて……氷河……氷河、やめて……」

この場で嘘をついているのは、間違いなく瞬の方だった。



氷河は、インディオたちの都に来て、嘘をつくことを罪だと考えるようになったのだろうか──。

繰り返し押し寄せては、瞬の意識を消し去ろうとする氷河の力と熱に、瞬の嘘は屈服しかけていた。






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