嘘をつかずに生きる──。 それは何と素晴らしいことだろう。 自分を飾るためにも、人の心を傷つけないためにすら、偽りの言葉を自分の口が吐き出すことはない──ということは。 神に捧げる原初の舞踊のような交接。 嘘をつかずに、思うがまま、自分にも他人にも自然にも正直に──。 今、氷河がその通りに、荒々しく猛々しい踊りを踊っている。 自分が望む通りに、彼の中の自然が求める通りに、そして、瞬の心を無視して。 嘘をつかずに生きていることは、確かに幸福なことなのだろう。 自身の欲望だけに従って瞬を犯し続けている氷河の姿は、瞬の目にひどく美しく見えた。 氷河に貫かれるたびに自分の喉から搾り出される声こそが、嘘ではない真実の言葉なのかもしれないとも思った。 だが──。 誰もがそんなふうに嘘をつかず正直に生きていたなら、自分を偽らずに済む幸福を貪り続けていたなら、そのものは、やがて滅びてしまうのだ。 高度な文明と多くの人口と、人口に比例した多くの兵――しかも勇敢な――を抱えていたアステカ帝国が、たった数百人のスペイン人たちの前に破れ去ったように。 嘘をつくことは、自身が生き延びるために苦痛を背負い込むこと──なのかもしれない。 だが、誰かのために嘘をつく苦しみを知らない人間は、美しくはあったが、悲しいほどに儚い。 瞬が、氷河の目から逃げ続けていたのは、“一瞬”ではなく、“継続”を求めていたからだった。 氷河を受け入れれば、刹那の喜びと快楽を手に入れられることは、瞬にもわかっていた。 ただ、瞬は、それらのものが自分たちを変えてしまうのではないかと恐れ、そんなことはないのだという確信を求めて──求めて、得られずに、迷い続けていたのである。 一時の快楽が、自分たちの関係を間違わせることはないのだという確信を手に入れることができていたら、信じることができるようになっていたら、瞬はとうの昔に、氷河をその身に受け入れていただろう。 何があっても、自分たちはいつまでも一緒にいられるのだと、信じることさえできていたならば──。 |