現代に帰ってきた氷河を迎えたものは、星矢の爆笑と一輝の嘲笑だった。
現代への帰還を急いだために、15世紀のメキシコに飛んだ際氷河が着ていた洋服を捜している暇もなく、氷河は結局、インディオの服(とも言えない服)を身に着けて、城戸邸に帰ってくることになったのである。

中米のアステカの都の中では神々しく見えた格好は、600年後の日本では、それこそ道化者の姿にしか見えなかった。

「なに急にインディアンの真似なんか始めたんだよ!」
「まあ、馬鹿な貴様には実に似合いだ。いいセンスだな」

楽しそうに皮肉を言いながら氷河を嘲笑う一輝に、紫龍が同情の目を向ける。
無論、紫龍は、何も知らずにいることこそが一輝の幸せだろうと考え、沈黙を守ることに決めていたが。


「そんな言い方しないでよ! ほんとに大変だったんだからっ!」
瞬が氷河を庇って兄たちに反駁していったが、瞬にそんな庇い立てをされることは、氷河にはかえって情けなさを増すものだったのである。

「ああ、いい。俺も自分の馬鹿さ加減にはほとほと愛想が尽きた」
「そんなことないよ!」
瞬が、きっぱりと断言する。

それも、俺への思い遣りから出た嘘なのか?――と尋ねようとして、氷河はそうするのをやめた。
そんなことは、どうでもいいことだった。


――嘘のない原初のダンス。
瞬と身体を交わらせた時の感覚が、ふいに氷河の身体の奥に蘇ってくる。
いったい、いつ――今度はいつ――あの幸福な時間が自分の上に訪れるのかと思うと、氷河には、その待ち時間が永遠より長い時間のように感じられた。

氷河の瞳の中にある苦渋の色に、瞬はすぐに気付いた。
氷河の瞳の中に、『永遠にでも待つさ』という、半ば諦観にも似た思いがあることにも。


それが刹那を求めるものでなく、永遠を求めてのことなのならば、瞬の中にはもう、不安の思いはなかったのである。

「今日はくたびれちゃって、とても無理そうだけど、明日またインディアンごっこしようね、氷河。すごく楽しくて、気持ち良かったから」

「…………!」

“正直な”瞬は、それだけ言うと、頬を真っ赤に染めて逃げ出すように部屋を出ていってしまった。

思いがけない瞬の言葉に驚いた氷河が、ぽかんと口を開いたまま、その場に棒立ちになる。




時代は現代。
現況は驚天動地。

インディアンの格好をして、阿呆のように突っ立っている氷河の姿は、かなり間抜けだった。






Fin.







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