そんなふうにして数日が過ぎたある日。

その日も、ソレントは瞬と他愛のない世間話に花を咲かせていた。
ソレントは、いつも瞬の背後に控えている辞書の存在にも、いい加減に慣れてきていた。
氷河は自分から口を開くことはほとんどなく、彼自身の意見を差し挟んでくることもなかったので、気にかけなければ全く気にならない存在ではあったのである。

その氷河が、珍しく、自分から口を開いた。
それも、ひどく唐突に。

「瞬」
「なに、氷河?」
「この男とはもう口をきくな。誰かと話したいなら、星矢か紫龍あたりと話していろ」

「…………」
その唐突さもさることながら、彼の口にした言葉の意味を測りかねて、ソレントは一瞬目を剥いた。

「星矢や紫龍はいいの」
「奴等はいい。この男や一輝は駄目だ」
氷河の判断基準がどこにあるのか、ソレントには皆目見当がつかなかった。

「氷河、ソレントさんは、悪い人じゃないよ」
「そんなことは問題じゃない。おい、貴様ももう瞬には近付くな」

言うなり、氷河は、瞬の腕を掴みあげて椅子から立ち上がらせると、そのまま瞬を連れて部屋から出ていってしまった。

あとに残されたソレントは、まるで訳のわからないこの展開に、ひたすらぽかんと口を開けていることしかできなかったのである。






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