「なぜ、君等はよくて、私は駄目なんだ」

ソレントは、自らの疑問を、それまでほとんど無視する格好でいた、アテナと瞬の同僚たちにぶつけてみた。
問われた星矢と紫龍が、ソレントの話を聞いて、顔を見合わせる。

無理無謀無体と思われた、金持ちたちのソレント失恋計画。
それが案外的外れではなかったらしいことに、彼等は驚いてしまったのである。

「そんなことを訊かないでちょうだい。返答に困るわ」
その場でただ一人、この事態を意外とは思っていないらしい沙織が、とってつけたようにソレントに眉根を寄せてみせる。

無理がありすぎると思われていたジュリアン・ソロの計画が、金持ちたちの思惑通りに進んでいる――。
もしかすると、だから彼等は金持ちなのかもしれないと、星矢と紫龍は思い始めていた。

「あー……氷河は恋敵に敏感なんだ」
「恋敵? 私はキグナスの恋人が誰なのかも知らないが」
紫龍の説明に、今度はソレントが眉根を寄せる。

彼は、氷河に恋人がいるということすら、初耳だった。
それ以前に、あんな訳のわからない物体にも恋ができるということ自体が、かなりの驚きだった。

「瞬だよ、瞬。他に誰がいるってんだ」
「アンドロメダ……? しかし、彼は――」

その先を言葉にする前に、ソレントは一応、周囲を確認した。
室内に瞬がいないことを確かめてから、おもむろに口を開く。
「“彼”なんだろう? あんな顔をしていても」

「女に見えるのか?」
星矢は、ソレントに反問し、
「ま、見えるか」
即座に、ひとりで自己完結した。

「…………」
星矢の一人漫才で、それでもとりあえずソレントは、瞬が少女ではないという事実だけは確認できたのである。
それは、確認できたからどうなるという類の問題ではなかったが。

「私はそんな趣味は――」
「でも、氷河がNG出したんだろ? なら、あんたは瞬が好きなんだよ」
「そんな理屈が――」
「氷河の勘に間違いはないさ」

星矢はソレント当人の主張より、仲間の判断の方に信を置いているらしかった。
彼が、かつての敵よりも、共に闘い続けてきた仲間の方を信じる気持ちはわからないでもなかったが、それにしても突飛に過ぎる話である。

「そんな馬鹿なことが……」
ソレントは、星矢の悪質な冗談を一笑に付すべく、無理に笑顔を作ってみた。
無理に作ったその微笑はかなり不自然で、かつ、微妙に引きつっていた。






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