「アンドロメダは――本当にあの妙な男が好きなのか」
「まあ、デキてるのは事実だよ」
「瞬は、強引に迫られると嫌とは言えないタイプだしな」

やっと、ソレントにも受け入れることのできる発言が、紫龍の口から出てくる。
紫龍のその言葉を、ソレントは、『キグナスはアンドロメダに無理を強いたのだ』と脳内変換した。


「瞬って、ほんとはすげー方向音痴なんだぜ。海底神殿にも、最後に辿り着いたろ。アスガルドの時もそうだったけど、瞬がラスボスのいる場所に無事に辿り着いたことが奇跡なんだよな。あの時、俺は俺たちの勝利を確信したんだ」
「アベルとの闘いの時も、どういう芸当でだか、崖下に落ちそうになっていたな」

「?」
星矢と紫龍が何を言いたいのかわからない。
ソレントが怪訝そうに眉をひそめると、星矢が、彼にもわかるように説明をしてくれた。

「瞬の奴、氷河がいるところならわかるらしいんだ。氷河もおんなじ。あ、もしかすると、一輝もなのかな」
「氷河の瞬探知能力は特にすごいぞ。雪と氷以外、何の目印もないところで暮らしていたせいで、奴は地磁気で方角もわかるらしいが、氷河のあの能力は、瞬の匂いか何かを犬並みの嗅覚で感じとっているとしか思えない」
「その上、瞬の身体が発する熱や電磁波も探知できるらしいからなー」

アテナの聖闘士たちの話の、どこまでが事実でどこまでが冗談なのかが、ソレントにはそろそろわからなくなりかけてきていた。
混乱のソレントを無視して、星矢たちは勝手に、氷河と瞬の異能力話に盛りあがっている。

「氷河と瞬のアレって、ほとんどマーキングだよなー。場所問わずだし」
「時間も問わないようだな。本当は問うてほしいんだが。傍迷惑だ」


「……あれ……とは」
困ったようにぼやく紫龍に問い質したソレントへの答えは、能天気な星矢の口が返ってきた。

「なーにカマトトぶってるんだよ。アレだよ、あ・れ!」
「……?」

ソレントは、決してカマトトぶっていたわけではなかった。
彼は本当に、“あれ”の意味がわからなかったのである。

彼の目に映る瞬の、少女めいて清楚なイメージが、彼の判断力を大いに阻害していた。






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