自分の目の前で展開されている信じ難い光景に、ソレントは呆然としてしまったのである。 それは、彼には、刺激が強すぎ、衝撃が大きすぎたのだ。 基本的に、ソレントは、その軟派な外見とは裏腹に、糞がつくほど真面目な人間だった。 もともと音楽で身を立てようと思っていた彼は、海皇に呼び出しを食う前はレッスン一筋の生活を送っていたし、ポセイドンの海闘士として闘っていた時には、本気で汚れた地上を粛清することで、地上に理想郷が出現するのだと信じていた。 いったい、ポセイドンの海闘士の中に、ポセイドンの掲げる理想を本気で信じていた者がどれほどいたのだろう。 もしかすると、心底からの忠誠をポセイドンに捧げていたのは、彼の他には、クリュサオルのクリシュナくらいのものだったかもしれない。 そして、ソレントは、ジュリアン・ソロに戻ったかつての主君の軽薄な行状に眉をひそめることができるほどに、潔癖な人間でもあった。 彼は、それまでの人生のどの場面でも、優等生のエリートだった。 意識していなくても、他人を見下す性癖があった。 初めて味わった敗北で、謙虚の美徳というものを多少学びはしたものの、長年培われてきた強い自尊心がそう簡単に消えるものではない。 それが、ここに来て、がらがらと崩れ落ちてしまったのである。 自分より年下の聖闘士たちが、自分よりずっと先を歩いているということから受けた衝撃もあったが、何よりも彼のプライドを傷付けたのは、彼が好き(なのかもしれない)瞬が、彼の目には“変な男”としか映らない氷河にいいようにされているという事実だったろう。 その夜、ソレントは、他聞をはばかる、とんでもない悪夢に苦しめられた。 |