翌朝。
ソレントは腹を立てていた。

とんでもない夢を見た自分自身にも腹が立ったが、それ以上に、彼は、夢の中にまで出張ってきて、自分の下から瞬を奪っていった氷河に激怒しまくっていた。

とにかく、氷河から瞬を引き離してやらなければならない。
そうすることが正義だと信じて、彼は、瞬の部屋に向かった。

幸いにも、そして珍しく、瞬の後ろには氷河の姿がなかった。
一応、確認を入れる。

「キグナスは」
「あ、氷河は、今、ちょっと外に出てるんです。朝食のあと、僕がアイスクリーム食べたいって言ったら、買ってくるって言ってくれて――」
「それは好都合だ」
「え?」

これは、滅多にないチャンスである。
ソレントは深呼吸を一つして、自身に冷静になるように言い聞かせた。
そして、これは、決して瞬を好きだから言う言葉ではなく、嫉妬から出た言葉でもないのだと、自分に弁解した。
弁解をして、彼は、瞬に言った。

「アンドロメダ。君はあんな男と一緒にいるべきじゃない」
「え? あんな……って氷河のこと?」

他に誰がいるのだと怒鳴りつけたい気持ちを、ソレントはかろうじて抑えきった。

「どうして一緒にいちゃいけないんですか? 氷河は何でも知ってるし、とっても優しいのに」
「あんな男のどこが……!」

昼日中から、いつ人が入ってくるかもわからないような場所で破廉恥行為に及ぶ男を、無邪気に『優しい』と言い切る瞬に、ソレントの神経は逆撫でされた。
ソレントの価値観では、氷河は最低愛悪・犬畜生以下の生き物だったのである。


『でも、氷河がNG出したんだろ? なら、あんたは瞬が好きなんだよ』
『氷河の勘に間違いはないさ』


怒りで赤味を帯びてきた視界の中に、昨夜、夢に見た瞬の白い肌がちらつく。


『瞬は、強引に迫られると、嫌とは言えないタイプだしな』


強引に迫れば――そうと意識することもできないまま、獣に汚されている気の毒な少年の目を覚まさせてやることができるのだろうか――?
今、あの邪魔な男は、ここにはいない――。

ソレントはおそらく、自分が何を考え、何をしようとしているのか、自分でもわかってはいなかった。
自分が瞬の唇をふさぎ、その勢いに任せて、瞬をその場に押し倒してしまったことも、実は自覚していなかったのかもしれない。
「アンドロメダ……」

「ソレントさ……な……なに?」

ソレントの耳に、戸惑う瞬の声が聞こえていたのかどうか、

「な……んで……? や……やめて……」

自分にのしかかってくる男の肩を押し戻そうとする瞬の手に、彼が気付いていたのかどうかも、怪しかった。

「やだ……おも……」

ソレントは平生の判断力を完全に見失っていた。
そして、そんなソレントの理性を、彼の中に引き戻したのは、

「重いーっっっ !! 」

――という、瞬の叫び声だった。


「は?」
まさかそんな理由で拒まれるとは――と思った瞬間、ソレントの身体は、瞬のネビュラストリームによって自由を奪われていた。

「瞬っ、どうしたんだっ !? 」
瞬の声が聞こえたのか、あるいは野性動物の勘が瞬の危険を察知したのか、その場に氷河が飛び込んでくる。

氷河は、瞬の服の乱れと、彼の横で自由を失っているソレントの姿を見てとるや、手にしていたアイスクリームを床に投げ捨て、
「ソレント、貴様―っっ !! 」
踊りも踊らずに、ソレントめがけて、渾身のダイヤモンドダストを放っていた。


そうして、もちろん。
アイスクリームもソレントも、その部屋にあった瞬以外の全てのものが、一瞬にして凍りついた。






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