半分べそをかいている瞬の本音に、氷河が目を剥く。
それから、彼は、小さく吐息した。

「……まあ、俺も大概我儘なんだが」

結局のところ、氷河も、身体の切実な欲求とは別に、瞬にそれを許してもらえることで、安心感を手に入れたいと願っている部分があった。
瞬を、他の誰かに取られる可能性を減らすことにつながるのである、そういう関係を持つことは。

それを自覚していたからこそ、氷河は、瞬に待つと言ったのだし、瞬がしたいと言い出しても、『それでは、いただきます』と、安易に瞬の誘いに乗っていくことはできなかった。
それで結局瞬を傷付けることになりでもしたら、それこそ目も当てられないことになる。

いっそ、身体だけの欲求に従えたら、どれだけ楽かと思う。
人間には、独占欲や、そして、相手を思い遣る心というものがあるだけに不便なのだ。

「動物だったらよかったのにな、お互いに。人間だから、余計なことを考える」

「氷河……」

氷河が苦笑する様を見て、瞬はふいに思い出したのである。
自分が、氷河の何を好きになったのだったか。

ひどく独善的で視野狭窄にすら思える氷河は、実は、人を思い遣る術に長けていた。
ただ、彼は、その思い遣りを多くの対象物に与えられるほど器用ではなかったが。


色々あった――ような気がする。
拒む理由も、“我慢”をして、氷河の望みを叶えてやらなければならないのだと思った理由も。

そうしていいのだろうか――という迷い。
氷河を幻滅させたりしないだろうか――という不安。
氷河が待っていられるというのなら、ずっとこのままでいたい――と、瞬は心底では思い続けていた。
つい先程までは。

だが。
氷河のその苦笑を見た途端に、瞬はすべてが吹っ切れてしまったのである。






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