「んでも、何だって、そんな矛盾した花言葉なんだよ、鳳仙花って」
紫龍と瞬の途切れた会話を繋いでくれたのは星矢だった。

もっとも、星矢の口調は、氷河の意図を探ることを最初はなから放棄しているような、実に投げやりなものだったが。

そんな星矢に、藁にもすがる思いで、瞬が説明する。
「元ネタはギリシャ神話だよ。盗みの疑いをかけられた女神が、鳳仙花の花に姿を変えて、自分の無実を訴えるみたいに、種子の入った袋を開いてみせるようになったんだって。ちょっと触るだけでも種が弾けちゃうから、『私に触れないで』。そうなったのは、真実を知ってほしいからだから、『心を開く』なんだって」

「おまえ、氷河に濡れ衣でも着せるようなことした覚えはないのかよ?」
問われて、瞬は、ぷるぷると首を横に振った。

もともと氷河は、他人に理解されることを自ら拒んでいるような言動をしかしない人間である。
そんな人間に、どうすれば濡れ衣などというものを着せることができるのだろう。
最初から誤解──というより、無理解──を望んでいるような人間に。

「花言葉じゃないのかもしれないぞ。鳳仙花というのは、花が鳳凰の羽ばたく姿に似ているからつけられた名のはずだ。もしかすると、一輝絡みなんじゃないか?」
「……氷河、兄さんが、この花みたいに綺麗で可憐だとでも言いたいのかな」
「う……」

瞬の例え話に、紫龍は露骨に嫌そうな顔をした。
そして、言った。
「氷河の感性が一般的じゃないのは認めるが、奴もそこまで頓珍漢な感性は持ってないだろう。氷河は美意識に関しては、おそらくごくごく一般的なものを持っているはずだ」

『瞬、おまえに惚れてるんだから』と言いかけて、紫龍は、その言葉を喉の奥に押しやった。
それは、他人の口出しは不要、当人が伝えた方がいい事柄である。
どれほど、まどろっこしい方法ででも、当人が、じかに。

「うん……。そう思いたいんだけど、でも、じゃあ、いったい、この花はどういう意味なの」
さらりと、瞬が紫龍の見解を受け入れる。

それは、解釈のしようによっては、『一般的な美意識で判断すると、一輝は美しくない』と認めているようなものだった。
が、この場合は、一輝も、『鳳仙花の花のように可憐だ』と言われたところで喜びはしないだろうから、それは瞬なりの兄への思いやりの言葉だったのかもしれない。







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